谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
2015 巻, 17 号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
はじめに
レクチャー1 皮膚毒性
  • 安部 正敏
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 1-7
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

    「皮膚は内臓の鏡である」と称されるが、患者の皮膚には様々なSOSが現れる。皮膚症状は皮膚疾患のみならず、アレルギーやアナフィラキシーそして薬疹なども含まれ、そのSOSを読み取るスキルは、医師のみならず、医療に携わる職にあるものにとっては重要であることは論を俟たない。事実、筆者は医師ではなく若い看護師が発見した皮膚症状についてコンサルトされ、対応が遅れれば患者の命に係りかねない場面に幾度となく遭遇した。殆どの場合、早期発見により適切な処置を施され、患者は事無きを得て感謝されるが、「感謝すべきは最初に発見した看護師さんですよ」と答えることも少なくなかった。

     本特集では、薬疹として頻度も多い蕁麻疹を含むアレルギー性皮膚疾患をまず概説し、その後薬疹、デルマドロームの順に概説する。

  • 小島 肇夫
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 8-14
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     皮膚毒性に関係の深い化粧品・医薬部外品(薬用化粧品)に関する規制の現状確認から本稿を始めたい。日本では2001年の薬事法改正で1)、原則として化粧品の承認制度は撤廃され、販売名などを届け出るのみとされた。一方で、配合禁止成分のリスト(ネガティブリスト)、防腐剤などの配合可能な特定成分とその上限のリスト(ポジティブリスト)およびその他成分の配合上限などを掲載した化粧品基準(平成12年9月29日厚生省告示第331号)のもとで化粧品として使われる成分が選択されている2)。この範疇の成分が、十分に予見可能な条件で使用されても健康を全く損なわない、間違えても事故を防止できるという事実上の安全性が確保されている状態で使われている。一方で、新規化粧品成分の安全性は、製造物責任の範疇で業界が定める安全性試験を用いて安全性が確保されている3-7)。世界的にも、化粧品の安全性は上記のような規制、これまで培われてきた歴史や自主基準によって守られてきた。全成分表示、規制に準じた成分分析、ヒト使用試験を含む安全性試験、副作用報告、米国化粧品工業会による成分の再評価などである。

     一方、我が国には制度上、医薬部外品が存在する。 医薬部外品とは、薬事法(現在の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)でその作用が定められている製品を指す4)。医薬部外品の中の薬用化粧品としての効能の範疇では、日焼け止め、美白、口臭もしくは体臭の防止、あせもまたはただれなどの防止、脱毛の防止、育毛または除毛、染毛、パーマネント・ウェーブ、にきび、肌荒れ、かぶれまたはしもやけなどの防止、皮膚・口腔の殺菌消毒、浴用剤などが挙げられる。医薬部外品の原料に関する規格は、平成3年5月14日薬発第535号厚生省薬務局長通知「医薬部外品原料規格について」により定められ、平成18年3月31日薬食発第0331030号厚生労働省医薬食品局長通知により改正された「医薬部外品原料規格2006」(通称:外原規2006)で管理されている8)。この主剤はポジティブリストの成分と同様、有効性に加え、安全性も許認可制度で担保されてきた9)。この制度は、類似制度が中国および韓国にあるものの、欧米にはない。

     さて、2013年3月11日をもってEUで化粧品に関するすべての動物実験が禁止された10)。この理由は「動物実験の3Rs(Reduction:削減、Refinement:苦痛の軽減、Replacement:置き換え)」11)の普及に伴うEUにおける化粧品規制である。EUではすでに動物実験を用いた製品の市場での販売禁止(marketing ban)を進めており、さらに2013年3月より、成分の動物実験禁止が施行された(testing ban)。EUだけでなく、この動向はイスラエル、インドなど世界に広がりつつある12)。日本においても、2013年の2 月に資生堂は化粧品・医薬部外品に対する動物実験の廃止を決定、マンダムなどの大手化粧品会社も次から次へと動物実験を行わない方針で化粧品開発を進める声明を出し、多くの企業が追随している。このような状況の中、国際的な流通市場の現況を鑑み、日本でもいかにして動物実験を用いないで化粧品の安全性を担保するのかを考えねばならない状況になっている。動物を用いない動物実験代替法(以下、in vitro試験)で化粧品の安全性をどう担保するかが国際的な課題となっている。

     しかし、昨今、日本ではそれどころではなくなってしまった。ロドデノール問題や小麦加水分解物などで薬用化粧品の安全性のあり方が問われているからである。

  • 細井 一弘
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 15-17
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近年、医薬品のライフサイクルマネジメントの重性は増している。皮膚は体の表面を覆う最大の器官であり、外的刺激からの防護、体温調節、皮脂の分泌等の様々な機能とともに、薬物等を吸収する機能も有しており、経皮投与は医薬品ライフサイクルマネジメントの際の新規投与経路として注目されている。医薬品の投与経路変更に伴う経皮投与での毒性評価を実施する機会は増えると予想されるが、一般の製薬企業では経皮投与での毒性評価の経験は多くはないだろう。

     ロドデノールを含有する化粧品は2008年1月に医薬部外品として承認され、2013年7月に皮膚白斑による自主回収が発表された1)。本稿ではロドデノールによる皮膚白斑が毒性試験等の承認申請時の資料や関連情報から予測できたかどうかを回顧的に考察し、同様な健康被害の再発防止につなげるべく、今後の課題を提起したい。

  • 岡本(内田) 好海, 児玉 進, 中村 亮介, 斎藤 嘉朗
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 18-23
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品の副作用は、大きく2種類に分類できる。タイプAの副作用は、薬理作用と関連のある用量依存性の反応で、動物実験でも再現可能な事例が多く、予測やコントロールが容易である。糖尿病薬による低血糖など、医薬品の高濃度曝露に基づくものが多く、用量の調節で回避可能である。一方、タイプBの副作用は、本来の薬理作用と関連せず、動物実験で再現できないものが多く、アナフィラキシーなど特異体質性で発症予測が難しい副作用である。発症機構が不明なため、長らく一定の割合で発症しても致し方ないと考えられてきた。しかし、ゲノム薬理学の発展により、その一部ではあるが、発症と関連するゲノムマーカーが同定され、さらにその機序も明らかになるなど、発症回避が可能な事例も出てきた。本項では、ゲノムマーカーとの関連性について最も研究が進んでいる重症薬疹に関し、最近の知見を中心に述べる。なお、カルバマゼピン、アロプリノールを中心とする2012年頃までの知見は、既に本毒性質問箱で詳細にまとめており、ご参照頂きたい1)

レクチャー2 トランスレーショナルリサーチ
  • Frank Hsieh, Elizabeth Tengstrand
    原稿種別: other
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 24-37
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     Drug-induced phospholipidosis (DIPL) is a phospholipid storage disorder that results in the excessive accumulation of drugs and multilamellar (myeloid) bodies in tissues. Many factors contribute to the development of DIPL, including a drug’s structure, dose level, duration of dosing (exposure), and mechanism of action on phospholipid metabolism1). DIPL can be induced in many tissues of the body. It generally occurs in a dose (concentration) and time-dependent manner. Its occurrence in vivo cannot be predicted based only on drug structure. For a given drug, the sites of induction can vary among and within species2).

     The functional implications of DIPL remain undefined. In nonclinical safety studies, compounds that cause DIPL are typically associated with higher incidences of pathological findings than non-phospholipidosis inducing compounds3). The labels of many marketed drugs describe findings of DIPL during nonclinical studies, but indicate that the significance for humans is unknown. However, phospholipidosis occurs concurrently with clinically relevant toxicities (e.g., QT prolongation, myopathy, kidney toxicity, liver injury, respiratory dysfunction) caused by a number of commonly prescribed drugs4).

     Some forms of DIPL have been considered as“ adaptive” or“ compensatory” in that they are not associated with evidence of cellular/tissue impairment. Even so, DIPL is a mechanism that promotes cellular/tissue drug accumulation. Once a drug, stored in large amounts, reaches a threshold level, drug overload can lead to cellular/tissue dysfunction and toxic off-target effects. Since DIPL may be linked to unwanted toxicities, it is important for pharmaceutical researchers and physicians to better understand, track, and manage this drug side effect.

     Several fundamental questions about DIPL remain unanswered: (1) what is the relationship between DIPL and drug toxicity, (2) what are the human consequences when DIPL is observed in animal studies, (3) are some patients more susceptible to DIPL, and (4) what are the best strategies to assess/manage DIPL in the clinic? These concerns have slowed drug development (e.g., fluoxetine) and contributed to the non-approval (e.g., tecastemizole), limited use (e.g., amiodarone), and withdrawal (e.g., perhexiline, coralgil) of marketed drugs5,6). From a regulatory perspective, DIPL is considered an adverse finding whether justified or not7). Any assumption about the safety and manageability of DIPL in humans should be supported by clinical evidence. Monitoring for DIPL should be performed when prescribing drugs that cause phospholipidosis in nonclinical/clinical safety studies. This review addresses the need for a non-invasive biomarker to evaluate the onset, time course, and functional impacts of DIPL. The use of di-docosahexaenoyl (22:6)-BMP (di-22:6-BMP) is highlighted as a reliable biomarker of DIPL in animals and humans. A drug risk management strategy is presented for decision making in nonclinical/clinical studies to reduce uncertainty in DIPL risk assessment.

  • 松崎 典弥, 明石 満
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 38-44
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医療・創薬研究において、動物実験は削減の方針となりつつある。期待されているのが、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)1)から分化誘導して得られる様々な正常および疾患細胞である。特に、患者由来iPS細胞から分化誘導した疾患細胞は、ヒトと動物の種差の課題を解決し、候補化合物の薬効や毒性を評価できると期待されている。しかし、生体組織は複数種類の細胞で構成され、種々の細胞が相互作用することで組織としての機能を発現しているため、細胞単体で生体組織と同じ薬剤応答を得ることは困難である。例えば、肝細胞の重要な機能の一つであるアルブミンの産生量は、細胞単体と比較して三次元組織体では10倍以上増加することが報告されている2)。そこで、生体組織を構成する様々な細胞とタンパク質を三次元で統合し、生体組織類似の機能を有する三次元組織を構築できれば、生体組織に近い薬効・毒性応答が得られると期待される。

     三次元組織構築に関する国際競争は既に激化しているのが現状である。米国では、国防高等研究計画局(DARPA)と国立衛生研究所(NIH)への巨額の研究費が投じられ、「Organ on a chip」という、動物実験に代わるヒト細胞のチップを用いた医薬品評価を実現するプロジェクトが進行している3)。欧州連合(EU)では、第7次フレームワークプログラム(FP7)にて「The Body-on-a-chip」プロジェクトが開始されている。iPS細胞で優位に立った日本がそのリードを維持して激しい国際競争に勝つためには、普遍性の高い三次元組織構築技術の確立が急務である。

     生体外での組織構築は、動物実験代替法の観点からも大変重要である。EUでは、2013年3月11日より動物実験を行った化粧品の販売が例外なく禁止となり4)、国内でも株式会社資生堂と株式会社マンダムが動物実験の廃止を既に決定している。したがって、実験動物に代わりヒト皮膚モデルを用いて毒性・効果判定試験を行う必要がある。現在市販されているヒト皮膚モデルは、「表皮層のみ」、「表皮層+真皮層」の2種類であり、付属器としては色素細胞(メ ラノサイト)を導入した皮膚モデルも市販されている。しかし、国際標準として認められているのは、「In vitro皮膚腐食性:ヒト皮膚モデル試験(OECD TG431)」と「In vitro 皮膚刺激性:再生ヒト表皮試験法(OECD TG439)」のみである。血管網やリンパ管網、免疫細胞などの機能性を導入したヒト皮膚モデルの構築は未だ困難であるため、アレルギー性試験などの微小応答を評価することができず、早急の解決が求められている。この動物実験代替の流れは化粧品だけでなく創薬分野にも波及しており、日本製薬工業協会(製薬協)は、創薬研究における動物実験の減少と代替法の活用を推進している。近い将来、創薬研究においても動物実験代替法が普及することが容易に想定されるため、本課題は、皮膚モデル以外の組織・臓器モデル、例えばヒト肝組織やヒト心筋組織モデルなどにも発展するであろう。

     つまり、医療・創薬・化粧品分野における次の大きな課題は、“いかにして三次元組織を生体外で構築するか”であると言っても過言ではない。生体組織・臓器の代替物として医療・創薬分野に有用な三次元組織の工業的な安定生産・供給が可能となれば、国際競争力に優れた普遍性の高い日本の新しい産業となることが期待される5)

レクチャー3 ゼブラフィッシュ
  • 宮脇 出, 出口 二郎
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 45-52
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品候補化合物に関しては、その有効性のみならず、安全性の観点からもより望ましいプロファイルを有する化合物を研究の初期段階において選抜することが、その後の研究開発を円滑に行う上で近年重要となってきている。一方、化合物量の制限やアッセイ系のスループット性の観点から、従来、創薬研究の初期段階における安全性評価は培養細胞等を用いたin vitro評価系にて行われてきた。これらin vitro評価系は特定の毒性表現型を検出するためには非常に有効な手段となる一方、複数の器官・組織が関与するような複雑な機序に基づく毒性については培養細胞等での検出は困難であることから、化合物スクリーニングで求められる高いスループット性を有する新たなin vivo評価系の構築が期待されている。

     ゼブラフィッシュはその成魚の体長が4~5cm程度となる、インド原産のコイ科の小型熱帯魚である。 1970年代頃より基礎研究分野でモデル動物としての利用が始まり、遺伝子介入技術が容易に適用できることなどから1990年代には発生学分野で汎用されるようになった。元々は胚の初期発生等に関する基礎研究などに使われていたゼブラフィッシュが、薬剤スクリーニングに求められるスループット性の高いin vivo評価系としての要件を満たすことから、近年創薬研究の分野でその利用が広がりつつある。

  • 山下 晃人
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 53-57
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

    医薬品の胚・胎児発生に関する試験では、ラットやウサギ等の哺乳類が用いられているが、これらの実験動物を用いた評価系は評価期間が長くスループット性に欠けることに加え、コストが高く、必要な化合物量も多いことなどから、創薬研究の初期段階での評価には不向きである。そのため創薬初期段階で利用可能な代替法として、マイクロマスカルチャー(micromass culture:MM)法1)、全胚培養(whole embryo culture:WEC)法2)、EST(embryonic stem cell test)法3)が利用されてきた。しかしこれらのin vitro評価系では、一部の器官への分化に対する薬物の影響を評価しているため、複雑な胚発生過程における医薬品の作用を総合的に評価することは困難と考えられる。また、手技手法に熟練を要する試験法も存在する。そこで、これら懸念点を払拭する新たな評価系とし て、ゼブラフィッシュの催奇形性評価への応用が検討されてきた4-6)。ゼブラフィッシュを用いた催奇形性評価法については、これまで種々の報告が示している通り、実験操作が簡便であり、従来のin vitro評価系と比較しスループット性及び催奇形性の予測率が高いことから、その有用性は高いものの、試験系は必ずしも統一されておらず、各施設で独自の評価方法を確立しているのが現状である。そのため本稿では、ゼブラフィッシュを用いた催奇形性評価法について、当社で確立した手法の概要を示した後、これまでに報告されている各評価手法も踏まえ、考慮すべき事項を示したい。

  • 竹藤 順子, 孫谷 弘明, 宅見 あすか, 宮田 英典, 宮脇 出
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 58-61
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

    ゼブラフィッシュはホール・アニマル・スクリーニングが可能で、スループット性も高く、コストパフォーマンスもよいことから、環境毒性評価などに用いられてきた。動物倫理の観点からも近年代替法として推奨されてきている。安全性評価研究会では、2014年9月の夏のフォーラムでゼブラフィッシュを用いた試験についての講演と、少人数によるグループディスカッションを実施した。本稿では、この夏のフォーラムで議論となった内容を中心にQ&A形式でゼブラフィッシュの基礎的内容を紹介する。

レクチャー4 複合型毒性試験
  • 濱田 修一
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 62-70
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     本稿内容は2014年の日本毒性学会シンポジウムにて行った講演を基に、若干の追加修正を加えて構成したものである。また、肝臓小核試験に関する内容は株式会社LSIメディエンスで実施した基礎検討に加えて、日本環境変異原学会・MMS研究会で実施した共同研究の成果に基づいており、詳細は原著を参照されたい1-4)

  • −中枢神経及び呼吸系への作用評価の組み込みについて−
    出口 芳樹
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 71-76
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     安全性薬理試験の実施方法について、日本では2001年に「安全性薬理試験ガイドライン」1)(平成13年6月21日医薬審発第902号)として厚生労働省から通知された。安全性薬理コアバッテリー試験の目的は、生命維持に重要な影響を及ぼす器官系における被験物質の作用を検討することにあり、中枢神経系、心血管系及び呼吸系が通常コアバッテリーで確認するべき器官系とされている。また、in vivo試験を行う場合は無麻酔・非拘束動物から得られたデータが望ましいとされている。従来から実施されている独立した安全性薬理コアバッテリー試験において、中枢神経系に対する作用は、Irwin変法や機能観察総合評価法(functional observational battery: FOB)を用い、行動変化、協調性、運動量、感覚/運動反射、体温などを指標として評価される。心血管系に対する作用については、非侵襲的な測定(テレメトリー法)によって心拍数、血圧及び心電図が評価される。 呼吸系に対する作用に関しては、小動物ではwhole body plethysmography法(WBP法)によって呼吸数、一回換気量及び分時換気量が評価され、大動物ではテレメトリー法を用いて血圧波形の揺らぎをカウントした呼吸数、ならびに動脈血による血液ガス分圧及びヘモグロビン酸素飽和度などが評価される。一方、本ガイドラインには、「毒性もしくは薬力学的試験の一部分としての安全性薬理エンドポイントを評価することで十分な場合があり、独立した安全性薬理コアバッテリー試験を削減または省略することができる」という記載もある。しかし、安全性薬理エンドポイントは一部を除いて、一般毒性試験で用いられる観察法や測定法では明確に捉えられない、あるいは適切に評価できないとの理由から、安全性薬理評価が一般毒性試験あるいは薬物動態試験に組み込まれることはほとんどなかった。

     2010年に「医薬品の臨床試験及び製造販売承認のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」2)(ICH M3)が改正され、「安全性薬理試験の使用動物を削減するため、in vivoで評価する場合には、可能な範囲で一般毒性試験に安全性薬理評価を組み込んで実施することを考慮すべきである」と記載された。同様に、2010年及び2012年にそれぞれ厚生労働省から通知された「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドライン」3)(ICH S9)及び「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」4)(ICH S6)においても、独立した安全性薬理試験を縮小または省略可能という文言が記載された。

     株式会社新日本科学 安全性研究所における安全性薬理エンドポイントの一般毒性試験への組み込み状況を図1に示す。ICH M3の改正前(2009年以前)と改正後(2010年以降)で比較した場合、ICH M3改正以降はラット及びサルを用いた一般毒性試験に安全性薬理評価を組み込んだ試験は明らかに増加している。また、安全性薬理評価を組み込んで実施した試験の被験物質は、ラット及びサルともにバイオ医薬品などの高分子化合物がほとんどであり、低分子化合物における組み込み試験はわずかである。組み込み試験種としては、ラット及びサルともに4週間反復投与毒性試験が多く、ラットでは2週間試験への組み込みも多い。ラットでは中枢神経系と呼吸系の両方に対する作用評価を組み込んだ試験もあるが、その多くはサルと同様に中枢神経系への作用のみの評価である。心血管系に対する作用評価の組み込み試験はラット及びサルともに実施していない。

     医薬品開発において、動物福祉への配慮、バイオ医薬品や抗がん剤の開発増加から、独立した安全性薬理評価に用いられている方法を一般毒性試験に組み入れる機会も多くなってきている。しかし、安全性薬理評価を一般毒性試験に組み込む場合、独立した安全性薬理評価の方法をそのまま組み込むことができるか、組み込むことができない場合はどのような方法で評価可能か、安全性薬理試験は単回投与による評価なので反復投与の初回投与日に評価することができるか、どのようなスケジュールで実施すればよいかなど、多くの課題を解決しなければならない。

     本稿では、開発化合物の非臨床安全性試験において、中枢神経系及び呼吸系に対する安全性薬理評価の一般毒性試験(反復投与毒性試験)への組み込みの現状と問題点を紹介する。なお、心血管系に対する安全性薬理評価の一般毒性試験への組み込みに関しては、毒性質問箱第14号「一般毒性試験に安全性薬理評価(心血管系)を組み込む際の課題」5)を参照いただきたい。

レクチャー5 スフェロイド分科会の活動成果
  • 松本 範人
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 77-78
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     肝臓は高濃度の薬物曝露を受け、その代謝を担う重要な臓器であり、医薬品の毒性標的となることが多い。医薬品の非臨床安全性試験としてラット、イヌまたはサルを用いた反復投与毒性試験が実施されるが、これらの毒性試験において肝毒性を示さなかった医薬品候補物質が臨床試験段階や上市後にヒトで肝障害を引き起こし問題となることがある。近年、製薬企業では、肝臓に対して安全性の高い医薬品候補を創製するために、動物での毒性試験に加えて、培養ヒト肝細胞を用いた毒性評価を創薬初期に実施するケースが増加している。

  • 楠元 久美子
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 79-81
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品の探索段階では、ヒト肝細胞培養系を用いた種々の薬物代謝・毒性評価への試みが精力的に検討されている1)。ヒト肝細胞が容易に入手しやすい環境になってきたことや、細胞培養技術の進歩により細胞の機能を維持しやすい培養基材が手に入るようになってきたことなどから、培養面においては、high-throughput化が可能な環境が整いつつある。また、小動物を用いたin vivoにおける化合物の代謝物検索も医薬品の探索段階で検討されることが多い。一方で、薬物代謝物プロファイル検出のための分析法については簡便化が進んでおらず、従来の分析法では未変化体および生成した代謝物の同時検出に長い分析時間を要し、かつ薬物ごとに分析条件を検討・構築していた2-5)。そこで、我々はliquid chromatography coupled to atmospheric pressure ionization-tandem mass spectrometry (LC/MS/MS)を用いて、薬物の脂溶性パラメー タ(cLogP)によって分類される、未変化体を含めた代謝物の迅速かつ簡便な一斉分析法の開発を検討した。

  • 王鞍 孝子
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 82-87
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     薬物動態担当者にとっては、開発医薬品の代謝物検索、特にヒトと動物との代謝物の相違を知ることは重要課題である。従来のin vitro代謝系(S9フラクション、単層培養等)におけるin vivo代謝物の予測率は4~7割程度であり、特に多段階で生成する代謝物の予測は低いことが報告されている1,2)。これらの原因として、反応系の酵素や補酵素等の枯渇が考えられている。そこで、生体により近い3次元培養法は有効なツールではないかと考え、当分科会ではその有用性を検討してきた。これまでの3次元培養-スフェロイド培養-の薬物代謝に関する成果を報告する。

  • 楠元 久美子, 鰐渕 英機
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 88-91
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品開発において、臨床試験や上市後で予期せぬ副作用や毒性発現により、開発中断・販売停止となることは依然として存在する。中でも、肝毒性の頻度は高い1)

     臨床試験前には、これまでも種々の動物を用い毒性評価が試みられてきたが、種差によりヒトにおける適切な毒性評価がなされなかった場合も確認されている2)。また、ヒト肝細胞や組織等を用いた種々のin vitro肝毒性評価の実施は増加傾向にあるが、長期間代謝能を維持した状態で培養することが難しいなどから、ヒト特有の毒性評価が不十分であった3)。 そこで、肝毒性による健康被害と経済損失を回避すべく、種々の肝毒性評価への試みが精力的に検討されている。

     近年、様々な三次元培養基材が開発され、in vitro 代謝・毒性評価での使用に多く提案されている。 我々、安全性評価研究会・スフェロイド分科会では、三次元培養法のひとつである「ヒト初代培養肝細胞スフェロイド」に着目し、本培養法の有用性の確認と評価法の標準化を進めるべく、クローズド・コンソーシアムの分科会活動として検討を行った。今回はこれまでの検討結果の紹介と、活動成果を踏まえた今後の展望について述べる。

  • 飛躍を目指して新たなステージへ
    荻原 琢男
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 92-93
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     現在、欧州動物実験代替法評価センター(ECVAM)主導の各種毒性試験のバリデーションが進展しており、これらは今後順次ピアレビューされる。これらの試験は将来OECDのテストガイドラインに盛り込むことを想定したものであり、医薬品のみならず化粧品、食品を含むすべての化学物質が対象となる。この動きを受けて、本邦においても日本動物実験代替法評価センター(JaCVAM)において皮膚感作性試験を皮切りにこれら一連の毒性試験の資料編纂が開始されており、近々、肝毒性についても議論の俎上に載るものと考えられる。

レクチャー6 ファーマコビジランス
  • 阿部 浩司, 柏木 雄人, 桃崎 壮太郎
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 94-101
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     近年、世界的に低迷する創薬の成功確率を高めるツールとして注目を集めているのがバイオマーカーである。臨床評価に技術革新をもたらすと期待されるバイオマーカーは2004年3月に米国食品医薬品局(FDA)がまとめた“Innovation or Stagnation”(革新か停滞か)という刺激的なタイトルの白書発表を機に、バイオマーカー研究はより活発になっている。また、新薬開発の成功確率の低下の原因として開発プロセス(クリティカルパス)で使用されている技術やツールが従来の古いままになっていることが指摘されている。現在、臨床で広く使用されているPET(ポジトロン断層法)、SPECT(単一光子放射断層法)、MRI(核磁気共鳴画像法)、 X線CTなどのイメージング技術や診断の進歩に加え、画像処理、検出器などの技術の飛躍的な向上により、ヒトのみならず小動物での生体の形態や機能を直接画像として捉え、定量的に解析することが可能になってきた。生体内で起こる様々な生命現象を分子レベルで可視化できる分子イメージング研究は生命活動の解明、病態の原因解明、疾患診断、個別化医療や創薬などへの応用が特に期待されている。これら分子イメージング技術を臨床開発に活用し、早期診断・治療・予防・テーラーメイド医療などの診断・治療分野に展開し、新薬の治療効果や副作用を画像化して捉える技術が大きく期待されている。

     PET、SPECTは放射性同位体で標識した化合物と生体分子との相互作用を非侵襲的に高感度かつ高精度で、定量的に画像評価できる技術である。分子の挙動を生きた状態で調べることが可能なPET/SPECTは、製薬企業が有する化合物を直接標識することで、ヒトや動物での化合物の組織分布等の薬物動態解析に応用できるだけでなく、生体機能変化を検出しうるイメージングバイオマーカーとして、新薬開発、疾患診断に応用できる。一方、MRI は生体の形態情報を非侵襲的かつ100ミクロン前後の高い空間分解能で検出できるだけでなく、様々な機能画像法が開発され、病態診断に応用されている(表1)。創薬において、病態や疾患特異的分子の画像による薬効評価や安全性評価は非常に有用であり、そのためのイメージングバイオマーカー研究は動物からヒトへの一貫した橋渡し研究を可能にするため、非臨床試験から臨床試験での薬効・安全性への予測や検証研究が可能になり、臨床試験の成功率向上につながると考えられる(図1)。著者らはPETをはじめとする核医学分子イメージング技術やMRIを用いたイメージング研究を進め、病態や生理機能、薬剤の治療効果をイメージングで捉え、非臨床から臨床まで使用可能な機能画像診断技術の開発に取り組んでいる。本稿ではPETやMRIを用いた病態イメージングに関する我々の研究の一部を紹介する。

  • 上総 勝之
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 102-106
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
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     イメージング技術を用いた検査手法は、生体内の様々な臓器の形態・機能の観察に汎用され、現代の医療現場においてもはや必要不可欠な診断ツールとなっている。イメージング技術には、比較的古くから知られる超音波エコーのほかComputed X-ray Tomography (CT)、Magnetic Resonance Imaging (MRI)やPositron Emission Tomography (PET)など多様な原理のモダリティが含まれ、それぞれ全く異なる特徴を有することから、目的に応じて使い分けられている。ここ数年の目覚ましい技術革新により、従来のモダリティの精度向上のみならず、Photoacousticや近赤外蛍光のような新たなアプローチも登場し、生体から更に多くの形態的、機能的、さらに分子レベルでの定性・定量的情報を非侵襲的に収集することが可能となってきた。

     しかし、臨床において活用分野が広がっていく一方で、イメージングを医薬品開発のための非臨床安全性評価や環境ハザード同定に標準的に適用していくための検討はまだ十分なされていない。動物における活用という点では、少なくとも獣医領域では、比較的大型の動物の診断にはヒトで汎用されるイメージング検査手法が同様に用いられてきた。近年になってイメージングツールのスペックは向上し、ラットやマウス、ゼブラフィッシュのような小型の動物であってもヒトとほぼ同質・同量の情報が得られるようになった。医薬品開発において、小型動物を用いて副作用リスクを早期に検出したり、ヒトでも同様に用いられる毒性バイオマーカーを探索するなど、活用できる場面は以前に比べて大幅に増えつつある。

     本稿では、非臨床段階の安全性評価への応用という観点で、エコーを始め幾つかのイメージングモダリティについて、特徴と検討事例を紹介する。

  • Lutz Mueller
    原稿種別: other
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 107-108
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     The translation of non-clinical findings with potential safety impact on patients into the environment of clinical trials is often difficult. The availability of markers for toxicity recorded in animal studies is key for monitoring translation, onset and progression in the clinical context. Many more or less pronounced aspects of organ or tissue damage are hardly associated with any such reliable markers of toxicity. In this context, FDA’s Critical Path Initiative has reinforced the need for additional biomarkers to predict drug toxicity in preclinical studies, specifically biomarkers that can act as surrogate endpoints and/or aid in making efficacious and cost-saving decisions or terminating drug development more quickly1). In response to the Critical Path Initiative, in October 2006, a biomarker consortium including the FDA, the Foundation for the National Institutes of Health, and the Pharmaceutical Research and Manufacturers of America was launched, which focuses on developing biomarkers for use in regulatory decision making, as well as biomarker discovery2). Such biomarkers are important for translational efficacy and safety and, in terms of safety, should ideally judge early an effect of organ function or constitution before severe damage sets in to facilitate treatment discontinuation in the clinical setting and to judge reversibility. Thus, safety biomarkers add profoundly on the risk-benefit evaluation of pharmaceuticals in clinical trials, for their approval for marketing and in later stages of a pharmaceutical in real world treatment conditions. In some cases, non-clinical efficacy or safety aspects are amenable to modern imaging techniques and thus their impact on the clinical development of a drug can be judged “online” with such techniques facilitating early readout of efficacy and safety. Among various imaging modalities, the imaging of lymph nodes in particular in the gastrointestinal (GI) tract of cancer patients has become an important clinical tool3). Positron emission tomography (PET) nowadays has a high resolution and offers the possibility to derive even staging information for lymph node enlargement.

後進へ伝えたいこと
  • 菊池 康基
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 109-114
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     私が武田薬品の研究所に転職し、医薬品の安全性に関わるようになったのは1970年7月で、36歳の夏であった。以来、今年で45年となる。そこで、これまで医薬品の安全性にどのように関わってきたか、自分の足跡を振り返ってみることにする。

     実は、このタイトル「後進へ伝えたいこと」については、本研究会のホームページに連載中の「製薬協・基礎研究部会の思い出」1)にほぼ書きつくしたつもりである。また、遺伝毒性試験については「医薬品の遺伝毒性試験の黎明期(「一向庵」株式会社イーエスサポート、ホームページ)2)に詳しく書いている。そこで、この2編を読まれた上で、この小文をお読み頂くとより理解して頂けると思う。

     これまでの私の活動や行為が、若い方々に何らかの参考になれば幸いである。

  • 寧為鶏口 勿為牛後
    野口 英世
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 115-121
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     医薬品の安全性を評価する研究に従事して半世紀、無事に喜寿を通過しました。敗戦の混乱の中で復員兵の教師に「むしろ鶏口となるも、牛後となるなかれ」と教えられて研究者の道を歩み50年、「日暮れて道なお遠し」の昨今ですが、ここまでの道筋をご紹介して後に続く皆さんのお役に立てれば幸いです。

  • 芳賀 敏郎
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 122-125
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     私の谷本学校での発言はほとんど統計解析に関する話題である。

     そこで、統計解析を勉強したい、または、企業内で統計解析を教えたいという方々に対して、何かお役に立つことをテーマとする。

     すでに、芳賀敏郎:あなたなら、どのように解析する? 毒性質問箱 2012. 14. 125-133.という資料を提供している。

     そこでは、データが得られてから、それをどのように解析するかを中心に構成されている。

     今回は、実験を実施するに先立ってどのように実験を計画するかを主題に取り上げる。また、実験結果の文書化などについても取り上げる。

毒性質問箱
  • 西山 義広, 重見 亮太, 鈴木 慶幸, 甲田 章, 有江 裕子
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 126-134
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     これまで我が国の医薬品の光安全性に関するガイドラインとしては、1989年に厚生省から発表された医薬品毒性試験法ガイドライン1)における「皮膚光感作性試験」のみであった。一方でFDAからは2003年に「Guidance for Industry, Photosafety Testing」2)が、EMEAからは2002年に「Note for Guidance on Photosafety Testing」3)が発表されたが、国際間で統一されたガイドラインが存在しない状態であった。2009年に発表されたICH M3(R2)ガイドラインにおいて、光安全性試験の考え方や実験的評価の実施時期等が示されたものの、光安全性に関する各非臨床試験の重みづけや結果の解釈には依然として地域差が存在する状態であった。

     そのような中で2013年11月に医薬品の光安全性評価に関するICH S10ガイドライン4)がstep 4(最終合意)に入り、光毒性(光刺激性)と光アレルギーの評価に関しては国際的な基準が示された。

     ICH S10ガイドラインの一般原則の中で、化学物質が光毒性や光アレルギーを示すための重要な性質として、「1:太陽光の波長内(290~700 nm)に光の吸収帯が存在する」、「2:UVあるいは可視光の吸収により、 反応性に富んだ分子種を形成する」、「3:光に曝露される組織(皮膚や眼)に十分な量が分布する」が記載されている。この中の一つでも当てはまらない場合には、通常その化合物は光毒性の懸念を直接呈することがないと記載されている。

     2014年にICH S10ガイドラインが厚生労働省から通知されたこと5)を受け、同年の安全性評価研究会の夏のフォーラムでは、光毒性に関するグループディスカッションを設け、実務担当者の現場レベルでの情報交換を実施した。本稿では、その際に議論した内容の一部をQ&A形式で紹介する。

  • 下村 和裕, 伊東 志野, 宮田 英典, 若松 正樹
    原稿種別: その他
    2015 年 2015 巻 17 号 p. 135-144
    発行日: 2015/09/28
    公開日: 2023/01/31
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     本誌、「谷本学校 毒性質問箱」はこの号で第17号となる。安全性評価研究会では会の創成期からフォーラム・セミナーにおいて、またはE-mail(かつてはパソコン通信!?)を利用して、会員の間で多くの「教えてください」が気軽に提出され、また、多くの「こんな経験があります」、「この本にこんなことが書かれています」などの返事が返されてきた。時には特別会員であるそれぞれの分野を代表する大御所の先生からもアドバイスを頂けることもある。研究会への参加が、発表を聞く・メールを読むという情報を得るだけの一方通行ではなく、自分の理解できないこと、経験のないことなどで行き詰まりを感じた場合は素直に手をあげてHELPを表明し、アドバイスが頂ければ、それをもとに更に自分で調べてその結果を報告し、その報告に対してまたコメントが集まるといった双方向の情報発信につながっていった。これが研究会の特徴的な活動となり、日本毒性学会学術年会でのシンポジウム・ワークショップでの毒性質問箱の企画にも結びついていった。質問の内容は実験に関する技術的なこと、ガイドラインの解釈、安全性試験結果の評価、PMDAなど規制当局とのやり取りに対する支援、GLPや統計など多岐にわたり、毒性の分野に携わる者にとって非常に有益なものが多い。取り扱ったQ&Aが口頭発表やメールのみで個人の記憶の中だけに留められるのではなく、研究会の財産としてしっかり形として残してゆこうということから、誌名を毒性質問箱として本誌が誕生している。創刊号から第14号まで600を超えるQ&Aが掲載されており、新しく安全性評価の分野に入った方にとっては、疑問に思うことが起きても、毒性質問箱誌のバックナンバーにあたることによって、多くが解決できる環境が整っている。しかしながら、創刊号は1998年発行であり、現在まですでに17年が経過している。その間、厚生労働省、FDA、EMAのそれぞれから新しく発表されたガイドラインもあり、日米欧三極でハーモナイズされたICHガイドラインもある。また、科学技術の発達により、新たな検査法・評価も導入されるようになったものもある。このような時間の経過から、現在の視点から古いQ&Aを見直してみると、現状とそぐわなくなったQ&Aも見出されるようになってきた。そこで、第15号では一般毒性、第16号では臨床検査・がん原性に関するQ&Aを現在の視点からアップデートしてきた。そして、この第17号では生殖発生毒性に関するQ&Aについて見直しを行った。

編集後記
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