抄録
腎臓は、その機能や構造の特徴から薬剤の影響を受けやすい臓器の一つであり、薬剤誘発性腎障害を早期に検出や診断することは、重篤な副作用の回避や適切な薬剤治療に重要である。現在、非臨床試験や臨床での腎障害の検出には血中尿素窒素(blood urea nitrogen: BUN)や血清クレアチニン(serum creatinine: SCr)がバイオマーカーとして汎用されているが、どちらも腎障害に対する検出感度が低く、腎機能が50%程度低下して初めて変動が認められる1-3)。また、腎臓以外の障害や、食事、脱水、栄養状態等の生理的な変動によっても影響を受けるため特異性も十分とはいえない2,4-6)。こうしたことから腎障害を早期かつ特異的に検出可能なバイオマーカーが望まれている。腎障害の検出には尿検査も汎用されており、非侵襲的に尿を回収できることが利点として挙げられる。
2006年にCritical Path Instituteにより設立された安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium: PSTC)の腎毒性作業部会では23種のラットの尿中腎障害バイオマーカーについて検討され、7種(kidney injury molecule-1(Kim-1)、アルブミン、クラステリン、trefoil factor 3(TFF3)、総蛋白、シスタチンC、β2-マイクログロブリン)の尿中腎障害バイオマーカーの有用性が示された7-10)。PSTCから推奨された7種のバイオマーカーに関しては、2007年に米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)、2010年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)においてその適格性が確認され、既存の血中腎障害バイオマーカー(BUN、SCr)との併用使用を前提として、非臨床試験におけるラットの急性腎障害(acute kidney injury: AKI)を検出する際の付加的な情報を与えるバイオマーカーとしての有用性が認められた。PSTCの報告以降、尿中腎障害バイオーカーに関する研究が精力的に行われているが、腎障害物質の反復投与による亜急性から慢性の腎障害の発症や病変進展過程において、腎臓の病理組織学的変化と尿中バイオマーカー変動との関連性を詳細に解析した報告は少ない。PSTCからPMDAに提出された薬剤誘発性急性腎障害に係るバイオマーカー相談においても、PMDAからは慢性的な腎障害の評価にあたってAKIのバイオマーカーが有用であるか否かの検証や、腎臓における病変が出現するまで並びに病変が消失または回復するまでの尿中バイオマーカー変動を評価する必要性が求められている11)。
本稿では、薬剤の反復投与により惹起される亜急性から慢性の腎障害の早期検出や病変進展のモニターに使用可能なバイオマーカーを探索した結果を紹介する12)。