抄録
腎障害は、医薬品開発において肝障害と並び懸念される副作用の1つである。従来、非臨床安全性試験では腎障害バイオマーカー(BM)として血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(sCre)、尿中総タンパク(uTP)及び尿中N-アセチル-グルコサミナダーゼ(NAG)等が使用されてきた。しかしながら、BUN及びsCreは腎臓に器質的変化が生じるまで変化しないことや、NAGは酵素活性があるためばらつきが大きいなどの問題を抱えている。従って、これら古典的BMは感度と特異性において十分とは言い難く、より早期かつ特異的に腎障害を検出できるBMが求められている。現在、これら問題を解決すべく、非臨床分野において新規腎障害BMが多く報告されており、特に試料採取時に侵襲性の低い尿中BMが注目されている。
非臨床分野ではPSTC(米国Critical Path Instituteの安全性予測試験コンソーシアム)から7種(uTP、β2-マイクログロブリン、Cystatin C、Kidney injury molecule-1(Kim-1)、アルブミン、クラスタリン、Trefoil Factor 3(TFF3))1)、臨床分野では腎臓病学の国際的組織であるKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)から5種(L-FABP、Cystatin C、Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)、Interleukins、Kim-1)2)の尿中BMが提唱されており、日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン20133)にも新規尿中BM(uTP、アルブミン、α1-マイクログロブリン、β2-マイクログロブリン、L-FABP)の有用性が記載されている。また、薬剤性腎障害診療ガイドライン20164)にもL-FABPとNAGが記載され、最近では日本腎臓学会を含む5学会合同でAKI(急性腎障害)診療ガイドライン20165)が発行され、AKIの早期診断におけるL-FABPとNGALの有用性が記載されている。
我々は、これらの内、本邦発のBMで日本及び欧州において腎尿細管障害の体外診断薬(尿細管機能障害を伴う腎疾患の診断の補助)として認可されているL-FABPに着目し、非臨床安全性試験への応用を検討し、非臨床から臨床への橋渡しを目指している(図1).