食文化の成熟や健康志向の高まりをうけて変遷してきた食品科学分野の次世代コンセプトのひとつは、より健康においしく幸せに食べたいという贅沢な食嗜好をいかにして満足させるかということである。つまり、食シグナルがマリアージュして「おいしい」という感覚ができる過程を科学的に理解し、それをいかにして「ものつくり」(食品開発)に反映させるかということが課題となる。本稿では、食シグナルのなかでも、特に嗅覚感覚に着目して、「好き=誘引」(そこにいって食べてみたい)というシグナルの情報処理機構を、受容体レベル、神経回路レベルの最近の知見をもとに概説したい。