2013 年 20 巻 1 号 p. 33-42
多くのアリ種は嗅覚器で巣仲間か否かを識別して、巣毎の仲間識別を行い、後者を排除する。仲間識別の主な鍵は体表炭化水素(CHC)と言われている。アリの中にはスーパーコロニーとよばれる巨大社会を形成する種がいる。スーパーコロニー内では、巣の境を越えて働きアリが自由に出入りできる、つまり、スーパーコロニー内の非巣仲間を寛容に受け入れる。しかし、依然として異種やスーパーコロニー外の同種個体を排除する識別能力を持ちつづけている。本稿では日本在来のスーパーコロニー形成種であるエゾアカヤマアリ(Formica yessensis)の、CHCを介した仲間識別メカニズムを生物化学的、電気生理学的、行動学的、および遺伝学的手法を用いて調べた多角的研究を紹介する。