抄録
哲学と美学における味覚と嗅覚の位置付けを歴史的に辿り、現在に至るまでの流れを概説する。古代以降の理性中心主義で人間存在の普遍性を外部の規範に求めるあり方から、18 世紀後半からは人間の感性的認識へと思潮がシフトしていく。19 世紀末から20 世紀にかけて感性全体を新たな視点から取り上げる思考が様々な形で現れ、味覚や嗅覚について異なる見方を可能にした。ゲシュタルト心理学に起源を持つオブジェクト理論は要素還元主義を排し、統合的なあり方で感覚全体を捉えようとする。またこれ以外でも味覚や嗅覚の対象となる範囲を拡大して思考する可能性が生まれてきている。