1998 年 5 巻 2 号 p. 119-124
従来、ニオイは情動を喚起する刺激であるとされ、また天然精油においては覚醒・鎮静効果を持つと伝承的に伝えられているものも多い。しかしながら、このような香りの心身への効果については経験的な議論が多く、科学的に実証しようとする動きはここ10年くらいである。ここではニオイと覚醒水準の関係について、またニオイと快-不快について生理心理学の立場から概説する。これまでに得られた知見から一部の精油の香りは鎮静・覚醒効果を示すことが明らかになった。その作用機序は、ニオイ物質の薬理効果ではなく嗅覚伝達系を介した効果であることが、嗅覚喪失マウスの実験結果・特異的無嗅覚症者を含む実験結果などから示唆されている。