抄録
シスプラチン(CDDP)は多様な悪性腫瘍の治療に用 いられている。副作用として重篤な腎障害を起こすこ とが知られている 1,2。CDDPを投与することでタウリ ントランスポーター(TauT)の down regulation に関与 する遺伝子 p53 の発現が増強するという報告がある [3-6]。本研究では、CDDP誘導性腎障害ラットを用い てタウリン投与によるTauT とp53の発現について検 討する。CDDP誘導性腎障害ラットモデルをCDDP投 与量とタウリン投与の有無によって 6 グループに分け て作成した。その後病理切片を作成し、TauT および p53 を免疫組織化学法にて染色し観察した。TauT で は Control 群において近位尿細管と集合管に強い発現 を確認した。タウリン非投与群の近位尿細管ではTauT の発現が減少した。タウリン投与群では、TauT の発現 に改善が見られた。p53 では Control 群において近位 尿細管にわずかに発現が認められた。タウリン非投与 群では p53 の発現が増加した。タウリン投与群では p53の発現が抑えられた。CDDP誘導性腎障害ラット にタウリンを投与すると p53 の発現が抑えられ、細胞 膜に TauT が多く発現することを確認した。また、タ ウリンを与えた場合に尿細管のタウリンの局在が増加 することが分かっている。タウリンは CDDP投与によ る p53の発現を低下させることで、細胞膜の TauT 発 現の減少を抑える。そのために、近位尿細管のタウリン濃度が維持されて細胞膜保護作用を発揮したと考え られる。CDDP誘導性腎障害に対してタウリンは p53 を抑制することによって腎保護作用を発揮しているこ とが示唆された。