本稿は対人関係が言語行動に与える影響について考察したものである。問題の提起のきっかけは日本人と中国人の言語行動に見られる違いによるお互いに抱く違和感や誤解からである。その原因を対人関係の捉え方の違いに求め、言語行動と「人間関係」との関わりを軸に幾つかの枠組を提示し、先行研究を踏まえつつ独自の見解を展開しながら考察を行なった。まず“面子”がいかに人間関係の調整に作用し、中国人の言語行動を特徴づけているかについて分析を行なった。中国人と日本人の人間関係のあり方を示す図式を比較し、対人関係の捉え方の違いや中国人の“面子”と日本人の「世間」が、それぞれの関係図において関わり方や言語行動に大きな違いをもたらすことを明らかにした。次いでは人間関係の構築と維持にみる中国人と日本人の言語行動の違いを「フェイス」と“面子”の視点も入れて分析を加えた。そして最後の節では人間関係の表示としての呼称、なかでも親族名称を主眼に、北京で行なった調査をもとにその使用状況の実態を示し、新語・新用法の呼称の出現などで主に若年層においては多様化している一方、親族名称のソトないしヨソへの拡張的用法はとりわけ「対目上の人」においてはそれほど変化していないことが分かった。