待遇コミュニケーション研究
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Print ISSN : 1348-8481
2019年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
コミュニケーションに違和感を生じさせる「ずれ」とは何か
「前提」の違いから派生した「ずれ」に着目して
馬場 美穂子
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2020 年 17 巻 p. 105

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抄録

本研究では、接触場面におけるコミュニケーションのずれに焦点を当て、特に、コミュニケーションや人間関係にマイナスの影響を及ぼし得るずれを残さないための方策を検討するために、コミュニケーション主体が覚えた違和感を指標としてずれの実態を探った。

調査方法としては、3組の日本語母語話者・非母語話者の初対面ペアに30分間会話をしてもらい、後日、協力者双方にFUIを実施、やりとりの中で違和感を覚えた箇所について語ってもらった。そして、その語りから違和感が生じた場面とその後のやりとりに関する意識を質的分析法により抽出し、同場面での相手の意識と比較しながら会話データを詳細に観察することで、そこで起きていたずれの様相とその行方を分析・考察した。

調査で得た20件の違和感のデータを分析・考察した結果、コミュニケーション主体が違和感を覚えたのは、①相手のコミュニケーション展開の仕方や発言内容、様子などが自身の持つ「前提」(蒲谷他 2019)と異なると感じた時、または、②理解・伝達やコミュニケーション展開がうまくいっていないと感じた時、であった。しかし、これらの違和感の多くは、根本にあるずれではなく、そこから派生したずれに対するものであり、自身で認識する違和感の原因と実際のずれが一致していないケースが多いことが分かった。この不一致の原因としては、違和感を覚えた相手の言動を自身の持つ「前提」を基準として解釈し、実際のずれの所在を探る働きかけをしなかったことや、相手への配慮から違和感を表出しなかったこと、つまり、違和感をやり過ごしたことが挙げられ、それにより相手の意図を誤解したままマイナスの違和感として残ることとなった。また、一方がずれの所在を探ろうと働きかけても、相手が互いの持つ「前提」に差異があることに考えが及んでいない場合には、その働きかけは見逃され、ずれの解消には至らなかった。

これらの結果から、コミュニケーションにおいて問題なのは、ずれが生じること自体ではなく、その原因を自身の解釈により別のところに帰属させてしまうことであると分かる。人は無意識のうちに自身の持つ「前提」を基準に理解や伝達を行っている場合があることを今一度認識し、ずれが相手に起因すると判断して完結する前に、伝え方を工夫しつつ違和感を表出し、ずれの所在を適切に把握すべく働きかけをしていくことが不可欠である。

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