待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
Print ISSN : 1348-8481
2020年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
中国人友人同士のWechatチャットにおける「否定」について
「遊び」としてのやりとりを中心に
儲 叶明
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2021 年 18 巻 p. 71

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抄録

本研究は、親しい友人関係にある中国語母語話者同士のWechatにおける自然会話に注目し、「遊び」としての否定がいかに間主観的に形成されているかを記述するものである。IM(インスタントメッセンジャー)における文字チャットでは、音声、および、ノンバーバルな要素による情報交換が制限されているため、対面コミュニケーションとの相違が見られることが想定される。本研究では、パラ言語、非言語的リソースが制限されているIMの文字チャットにおいて、中国語母語話者が「否定」を「遊び」としてリフレームする際の資源について記述し、中国語母語話者の非対面コミュニケーションにおける遊びとしてのやりとりの特徴の一部を明らかにした。その結果、

①絵文字の多用・文字による笑いの表記(「哈哈哈哈哈哈」「233333」)

②文脈から乖離した誇張された表現の使用(「勾引(誘拐)」、「抛弃(見捨てる)」)

③臨時的なコンテクストの利用(「(桜山)寮→山→「山大将」)

④あだなの使用

⑤語呂合わせに基づいた流行語の使用(「神馬(なに)」)

⑥一時的な配役ごっこ

⑦コードスイッチング

以上の7つの手立てが見られた。そのなかでも特に、語呂合わせによる効果は非対面コミュニケーションにおいてこそ(対面コミュニケーションに比べて)比較的顕著であると考えられる。なお、中国語の表記システムは漢字一種類のみであり、日本語のようにひらがな、カタカナ、ローマ字、何種類の表記システムをもたないものの、語呂合わせ、流行語の使用、コードスイッチング、漢字あるいは絵文字による笑い声の表記などによって異なるニュアンスを指標することができることが示唆された。最後に、本研究では、絵文字を伴わずに、「誘拐」、「見捨てる」といった深刻度の高い表現を使用する例が見られたが、中国語母語話者による「遊び」としてのやりとりにおいて、このような文脈から乖離した誇張された表現の使用が注目に値する。

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