2021 年 18 巻 p. 72
本発表では日本語とインドネシア語の評価のモダリティ形式が非対話場面においてどのような機能を持って使用され、相手のフェイスの侵害行為に関わっているのかを「なければならない」と”Harus”に焦点をあてて論じ、それぞれの言語での役割の異なりを待遇コミュニケーションの観点から分析した。データは日本版とインドネシア語版のTripAdvisorの口コミ各500件、計1,000件である。モダリティ形式の使用傾向を明らかにするために、計量テキスト分析ソフトKH Coderを使用し、出現頻度を集計した。その後、Leech(1983)のポライトネス原則、高梨(2010)、坂本ほか(1996)に従い、評価のモダリティの機能を質的に検討した。その結果「なければならない 」の出現頻度は137件中23例だが、”Harus”は167例と多く出現していることが確認できた。また日本語の「なければならない」の主語は書き手であるが”Harus”の主語はほとんどの場合読み手であった。主語が書き手の場合は読み手の過失を控えめにする機能があることから是認の原則が守られるが、主語が読み手の場合は読み手への非難を表現していることから是認の原則が破られる。また、評価のモダリティと表現意図の点から見ると、「なければならない 」の主語が書き手に関わると、「不満・遺憾の気持ちを伝えたい」という意図が強くなるのに対し、”Harus”の主語が読み手に関わると「不満な状況を変えたい」という意図が生じる。これらにより日本語とインドネシア語の不満表明の相違が生じると思われる。