待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
Print ISSN : 1348-8481
2021年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
日本語のスピーチレベル・シフトの場合と機能
鉄骨工場における技能実習生に向けられた日本人同僚の発話の分析から
張 学盼
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2022 年 19 巻 p. 131

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抄録

日本語のスピーチレベル・シフトについての研究が盛んに行われてきたと言えるが、それらに用いられたデータはテレビ番組・講演、又は被験者の親疎関係のような特定の条件を設定した準自然会話からのもので、自然会話に関する研究は少ない。また、接触場面の場合、留学生をはじめ、日本にいる生活者を対象としているが、技能実習生に関するものは管見の及ぶ限り見当たらない。そこで、本研究は、技能実習生を協力者とし、彼らの、実習を行っている現場における自然会話に注目点を置いた。本研究では、指示の多い作業現場、具体的には鉄骨工場をフィールドとし、そこでの、技能実習生に向けられた日本人同僚の発話に注目し、1)様々な場面に応じて、スピーチレベルの割合の変化、2)スピーチレベル・シフトの場合、3)その機能を明らかにすることを目的とした。

研究結果は以下の通りである。1)スピーチレベルの使用割合について、「丁寧体基調場面」では、丁寧体が97.5%に上ったのに対し、普通体が2.5%に止まった。「普通体基調場面」では、「J→B(C)」(「J」は日本人同僚、「B」は媒介者/通訳者、「C」は技能実習生を指す。以下同様)の場合は、丁寧体が37.9%であるのに対し、普通体が62.1%ある。「J→C」の場合は、丁寧体が5.0%に止まったのに対し、普通体が95.0%に上った。2)行われたスピーチレベル・シフトは「丁寧体基調場面」については5つの場合、「普通体基調場面」の「J→B(C)」には17の場合、「J→C」には5つの場合があることが明らかになった。さらに、「J→B(C)」における17の場合は発話内容から、①事実陳述型、②相手傾向型、③自己主張型、④感情表出型と⑤合図型の5種類に分けられた。機能については、談話標識、待遇標識、心的距離の伸縮と構造標識の4つに分類できた。3)「丁寧体基調場面」と「普通体基調場面」の「J→C」に生じたシフトは一回性のものであるのに対し、「J→B(C)」に生じたシフトにはすぐ主基調の普通体に回帰せず、丁寧体連続使用の現象が観察された。また、先行研究においては指摘がないが本研究の調査では新しく観察された場合は次のようである。ダウンシフトにはルールを明示する場合、アップシフトには客観説明をする場合、説明を諦める場合、1つの作業が終了時の合図を示す場合がある。

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