2023 年 20 巻 p. 51-67
本稿は、ビジネスメールにおけるメタ言語表現から読み取れるビジネスパーソンの待遇意識を明らかにし、待遇コミュニケーション論の視点からビジネス日本語教育に還元しようとするものである。まず、教科書を含むビジネスメール関連の書籍10冊、及びデータ使用の承認が得られたウェブサイトより、ビジネスメールにおけるメタ言語表現を761例収集し、データベースを構築した。次に、収集した用例の中で待遇コミュニケーションの枠組みである「人間関係」、「場」、「意識」、「内容」、「形式」に言及しつつ、待遇意識が反映されている用例を選定し、そこからどのような待遇意識が読み取れるのかについて枠組みごとに記述分析を試みた。最後に、枠組みの組み合わせに言及する用例、及びメール全体の文面を示した上で使用されるメタ言語表現から読み取れる待遇意識について総合的に分析した。その結果、「人間関係(自分・相手・話題の人物)」、「場(時間的な位置・空間的な位置)」、「意識(気持ち・認識・意図)」、「内容」、「形式」をどのように捉えて位置づけているのか、ビジネスコミュニケーションをどのような方向に持っていこうとしているのか、部分的ではあるが、具体的なメタ言語表現を通して、ビジネスパーソンの待遇意識を示すことができた。ビジネス日本語教育はビジネス場面の待遇コミュニケーション教育であり、ビジネスメールはビジネスコミュニケーションの縮図であると筆者は捉えている。ビジネス日本語教育の現場においては、ビジネスメールの文面のみならず、どのような待遇意識が読み取れるのか、そこから何が学べるのかについて学習者に考えさせる必要がある。本稿で収集したビジネスメールにおけるメタ言語表現の用例、及びメタ言語表現から読み取れる待遇意識についての分析は、待遇意識を考える際のヒントになるだろう。