2023 年 20 巻 p. 68-82
「待遇コミュニケーション」研究を行うにあたり、日本語の「待遇コミュニケーション」がどのようなものであり、どのような研究が必要であるかについて概観した。「待遇コミュニケーション」は日本語を人間関係と場を合わせた「場面」の観点から分析、記述したもので、「敬語」はその一部分を担う要素である。「コミュニケーション」は表現することと理解することを合わせた用語であるが、本稿では表現行為に焦点を当てて日本語の「待遇コミュニケーション」を分析した。表現主体が表したいと思ったこと「表現意図」がどのような過程を経て具体的な表現となるかについて分析、記述することが研究の目的であり、これが明らかになれば、非母語話者が母語話者の表現をどのように受け取り、そして、表現意図を具体的表現に表すことが可能になるという意味で、教育に利するものとなる。
「表現意図」を具体的表現にするためには、「表現意図」そのものの分析も必要であり、直接的に結びついた具体的表現の研究も必要である。そして、表現意図を実現させるためにそこに影響する要素がある。表現主体が持つ考え方、「配慮」がその一つであり、それは、相手を含む人間関係の要素、表現が行われる「場」の要素、自分自身をどのように考え表現するかの自分自身に対するものの3つがあげられる。そして、表現意図を実現させるための「配慮」を成り立たせるための、日本語に内在する「約束事」とそれを実現させる「装置」についても研究が必要となる。さらには、そのような考え方を成り立たせている日本語そのものについても考えることができる。本稿は「待遇コミュニケーション」研究の位置づけについて考察し、今後の研究の方向性について示唆したものである。