2023 年 12 巻 4 号 p. 228-238
腸管には100兆を超える腸内細菌が共生し,宿主であるヒトと複雑な共生関係を形成している。近年,次世代シーケンサーを用いた解析によって,腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が種々の疾患と関連することが報告されている。同種造血幹細胞移植において腸管dysbiosisは,移植片対宿主病(GVHD)の発症やその他の移植成績に影響を与えうる。移植時に使用される抗菌薬の影響に加え,GVHD自体もdysbiosisを誘導しており,さらなるGVHDの悪化に関与するという悪循環が明らかとなってきた。正常な腸内細菌叢を維持する移植方法を開発することで,移植の安全性や有効性がさらに改善していく可能性がある。本稿では,造血幹細胞移植後の,腸内細菌叢の変化が移植成績に及ぼす影響に関する知見をまとめ,造血幹細胞移植における腸内細菌叢の役割と意義および今後の展望について考察する。