天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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カイトセファリンの構造活性相関によるサブタイプ選択的イオンチャネル型グルタミン酸受容体リガンドの開発
保野 陽子濱田 まこと吉田 侑矢川崎 昌紀島本 啓子茂里 康秋澤 俊史小西 元美大船 泰史品田 哲郎
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p. Oral13-

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抄録

イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR)は,内因性リガンドであるグルタミン酸 (1)の結合を引き金として細胞外から細胞内へのイオン流入を調節する膜タンパク質である.哺乳動物の脳中枢神経における主要な興奮性情報伝達を担い,記憶や学習などの高次脳機能に関与していることが報告されている.1 iGluRは,リガンド [N-メチル-D-アスパラギン酸 (2), a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸 (3), カイニン酸 (4)]との親和性の違いによって,NMDA型受容体(NMDAR),AMPA型受容体 (AMPAR),およびカイニン酸型受容体 (KAR)の3つのサブタイプに大別されている (図1).各iGluRサブタイプがそれぞれどのような機能と役割を担っているのかに関心が集まる中,各受容体を選択的に活性あるいは不活性化するリガンドの開発に大きな期待が寄せられている.

近年,パーキンソン病,アルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患とiGluRの機能失調との関連が示唆されている.iGluRは,神経変性疾患治療薬開発の標的受容体として注目を集め,これまでにNMDARアンタゴニストであるメマンチンがアルツハイマー病の治療薬として開発されている.2瀬戸・新家らは,KARアゴニストであるカイニン酸の神経毒性から神経を保護する天然物をスクリーニングし,放線菌Eupenicillium shearii PF1191の培地からカイトセファリン (KCP: 5)を見いだした.3 2010年になり,Milediらは電気生理学的手法によりKCPの作用特性を調べ,NMDAR選択的アンタゴニストであることを明らかにした.4

図1 グルタミン酸受容体サブタイプとリガンドの構造

今回,我々はKCPの優れた生物活性と特異な構造に着目し,KCPの構造改変による優れたサブタイプ選択的リガンドとiGluR標識プローブの開発を行った.具体的には,KCPおよびアナログの効率的合成法の開発,ラット脳膜画分より調製したiGluRサブタイプに対する結合活性評価,KCPとiGluR結合ドメイン複合体の構造解析,および構造活性相関研究による活性発現部位の特定を実施した.一連の研究から新規NMDAR選択的リガンドを創製できたので,その詳細について報告する.

【カイトセファリンの結合活性評価】

 KCP (5)は天然から得ることが困難となっている.そこで,アナログ合成にも適用可能なフラグメント6〜8のカップリングによる5の効率的合成法を開発した.5これより約300 mgのKCPと,後述する種々のアナログを合成できた (図2).はじめに,ラット脳膜画分より調製したiGluRを用いて5のサブタイプ選択性と結合活性を評価した.比較として内因性リガンドであるグルタミン酸の結合活性を評価した.グルタミン酸 (1)は,すべてのサブタイプに対して非特異的に結合することに対して,KCPはNMDARに対して選択的かつ強力に結合した (NMDAR: Ki = 7.8 nM, AMPAR: Ki = 590 nM, KAR: Ki = 14000 nM).6 KCPのNMDARに対する優れた結合活性は,これまで報告されているNMDARリガンドの中で最も強力なクラスに位置するものである.

図2 KCP (5)およびグルタミン酸 (1)のiGluRサブタイプ結合活性. [

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