天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
58
会議情報

コリラジンの改良合成を基盤としたマロツシニンの全合成
池内 和忠山下 孝平久米 裕二芦辺 成矢プスピタ シシリア谷川 康太郎山田 英俊
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Oral7-

詳細
抄録

《緒言》マロツシニン(1)は1989年にMallotus japonicus(アカメガシワ)の樹皮から単離・構造決定されたエラジタンニンである(Figure 1)1。その構造はD-グルコースのβ-アノマー位にガロイル基、3,6位にRの軸不斉を持ったヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)基、及び2,4位にテトラヒドロキシジベンゾフラノイル(THDBF)基がエステル縮合している。さらに、HHDP基とTHDBF基に

よってD-グルコースの立体配座がaxial-richに固定されている。グルコースの2,4位酸素に架橋基を有するエラジタンニンは、これまでに数多く構造決定されているが、合成されたことはない。当研究室では、1の部分構造であるコリラジン(2)の全合成を既に報告している2。しかし、総工程が17段階と長く、全収率が0.78%と低いため、2より複雑な化合物合成への適用が難しかった。今回、2の合成法を改良し、1の初の全合成を達成した。

《コリラジンの改良合成》既に報告した2の合成経路をScheme 1に示す。本経路では、2の構造的特徴である架橋されたaxial-richなグルコースを構築するため、ピ

Scheme 1. Previous synthetic route for Corilagin (2)

ラノース環を一旦開裂して直鎖分子3とした後、酸化的フェノールカップリングにより(R)-HHDP基を構築している。それゆえ、得られた4からピラノース環を再構築する段階が必要である。また、グルコース2,4位酸素の保護基は、HHDP基上の保護基と同じBn基であるため、糖部分とHHDP基部分の保護基を異にする必要がある1の合成へ展開できない。そこで、2の合成法の抜本的改良から本研究を始めた。

 上記の合成経路の最大の欠点はHHDP基を構築するにあたりピラノースの開閉環を経ることである。この経路を採用した理由は、equatorial-richなグルコピラノース環の3,6位酸素に縮合したガロイル基を基質とした場合、グルコースの立体配座が変化しないために二つのガロイル基が近接せず、HHDP基を構築できなかったためである。そこで、D-グルコースの立体配座をあらかじめaxial-richに固定した7を分子内カップリングの前駆体とした(Scheme 2)。まず、1,2,4-オルトアセチルグ

Scheme 2. Stereoselective oxidative coupling of two galloyl groups on 7

ルコース(5)3を出発物質とし、5の3位と6位酸素を、Bn基とAllyl基で保護した没食子酸6でアシル化し、脱Allyl化を経て望みのテトラオール7を得た。7をCuCl2/nBuNH2の条件2に付すと酸化的フェノールカップリングは円滑に進行し、(R)-HHDP基を高立体選択的に与えた。生じた軸不斉の絶対配置は、Bn化を経て合成した8の加メタノール分解により誘導したメチルエステル9の旋光度の符号を、文献値4と比較して決定した。

 次に、8のオルトエステル部分を開裂した。まず、アリルグリコピラノシド10への誘導を目的に、1 M HClアリルアルコール溶液を反応させたが、10は得られず、フラノシド11が得られた(Scheme 3)。この原因は以下のように考えている。4位酸素のプロトン化によりオルトエステルが開裂しオキソカルベニウムイオン12が生じる。12に対し、アリルアルコールが付加するのではなく、4位水酸基からの分

(View PDFfor the rest of the abstract.)

著者関連情報
© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top