天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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22. 病原性放線菌Nocardia属からの新規天然物の探索:動物細胞との共培養法等(口頭発表の部)
*原 康雅荒井 緑原 昇子小林 菜摘當銘 一文小松 かつ子矢口 貴志石橋 正己
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 127-132-

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抄録

放線菌は多様な構造と活性をもつ二次代謝産物を産生する.ゲノム解析技術の飛躍的向上により,放線菌の二次代謝産物生合成遺伝子の大部分は二次代謝産物を産生せずに眠っていることが明らかとされた.そこで,新たな二次代謝産物を得るため,培地条件の検討,薬物刺激,異種発現などにより,休眠遺伝子の活性化が行われている.最近では,異なる菌株同士による「微生物-微生物」間の相互作用を利用した共培養法により休眠遺伝子を活性化し,新たな二次代謝産物を探索する試みなどが報告されている2).  放線菌の一種であるNocardia属はグラム陽性細菌であり,その多くが病原性をそなえ,ヒトでは肺や皮膚,脳などに日和見感染を引き起こす.本属は感染により免疫細胞などの生体細胞と相互作用をもつと考えられる.そこで,Nocardia属が動物細胞に感染する状態を模倣し,本属を動物細胞存在下で培養(共培養)することで,相互作用により本属が新たな化合物を産生することを期待して研究に着手した.このような「微生物-動物細胞」の共培養による天然物探索についてはこれまで報告がなかった.  一方,Nocardia属放線菌は近年のゲノム解析により,Streptomyces属と同程度の二次代謝産物生合成遺伝子群をもつことが明らかにされたが,Streptomyces属ほど天然物探索研究は進んでいない3).そこでNocardia属は天然物探索のための有用な未開拓資源と考え,生合成遺伝子活性化の一方法として,Nocardia属を様々な培地で培養(単培養)し,新規天然物の探索を試みた.  本討論会では,上記のような方法に基づく病原性放線菌Nocardia属からの新規天然物の探索について報告する. 1. 共培養法 1) 動物細胞との共培養法の条件設定  千葉大学真菌医学研究センターが保有する基準株を含む76種のNocardia 属放線菌のドラフトゲノムの解析を行い,感染因子として報告のあるnocobactin NA生合成遺伝子の特定のドメイン配列を指標に系統樹を作製し,6種を選別した.Nocardia属は人体に感染した際,マクロファージによる補食を受ける.そこで共培養に用いる動物細胞は,感染初期の状態を模倣する目的でマウスマクロファージ様細胞(J774.1)株を使用した.選別菌株6種について,動物細胞J774.1存在(共培養)および非存在(単培養)下,多様な条件下で培養を行い,得られた抽出物をLC-MSで分析した.その結果,J774.1細胞存在下,Nocardia tenerifensis IFM 10554T株を培養した抽出物に共培養特有のピークが複数観察されたことから,本菌株を選択し大量培養を行った.共培養時の菌株と動物細胞数の比率は抽出物のLC-MSの結果より,modified Czapek-Dox(mCD)培地において菌数:動物細胞数=10:1,DMEM+10%FBS培地において菌数:動物細胞数=5:1と決定した.

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© 2018 天然有機化合物討論会電子化委員会
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