日本転倒予防学会誌
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原著
健常な地域在住高齢者における転倒を予測する評価の検討
−文部科学省新体力テストの結果を用いて−
髙野 映子渡辺 豊明寺西 利生澤 俊二金田 嘉清近藤 和泉
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キーワード: 地域在住高齢者, 転倒, 評価
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2015 年 1 巻 3 号 p. 21-28

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抄録

【はじめに】地域在住での比較的自立度の高い高齢者であっても,転倒リスクは経年的に上昇すると報告されており,早期より転倒ハイリスク者を識別し,転倒予防活動を展開する必要がある。われわれは,文部科学省の高齢者向けの新体力テストを用い,屋外歩行が自立している地域在住高齢者の転倒を予測できるのではないかと考えた。本研究の目的は,屋外歩行が自立している地域在住高齢者を対象に,「過去1年間の転倒経験の有無」と「新体力テスト6項目」の結果を比較検討し,転倒に関係する評価を明らかにすることである。【方法】対象は,地区の公民館まで自力で通うことができる60歳以上の地域在住高齢者とした。新体力テストは,握力・上体起こし・長座体前屈・開眼片足立ち・10m障害物歩行・6分間歩行の6項目を実施した。質問紙調査から,対象を過去1年間に転倒経験がある群と転倒経験のない群の2群に分類し,6項目の平均値の差をMann-Whitney U検定にて比較分析した。さらに,有意差(p<0.05)のあった項目を独立変数,転倒経験の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,転倒発生のOdds比を求めた。また転倒経験の有無を状態変数としてROC曲線を描き,AUC, Cut off値,転倒予測感度,特異度を求めた。【結果】女性高齢者76名(年齢73.6±8.3歳)中,質問紙の結果から,転倒群は12名(年齢73.4±7.6歳),非転倒群は64名(年齢73.0±8.5歳)であり,転倒発生率は15.8%であった。両群における新体力テスト6項目の比較から,開眼片足立ち,10m障害物歩行,6分間歩行で有意差(p<0.05)を認めた。これら3項目を独立変数,転倒経験の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果,10m障害物歩行のみ有意差(p=0.005)を認め,Odds比は1.473(95%信頼区間1.127-1.924)であった。なお,ROC曲線よりAUC=0.763, Cut off値8.7秒,転倒予測の感度は100%, 特異度は57.8%であった。【考察】新体力テスト6項目中10m障害物歩行は,転倒のOdds比が1.473であり,対象群の転倒に深く関与していることが示唆された。10m障害物歩行は特異度が低いものの感度は100%であった点から,10m障害物歩行は,屋外歩行が自立している地域在住高齢者の一次スクリーニングとして有用であることが示唆された。今後,スクリーニングとしての活用法だけではなく,高齢者自身がバランス保持能力を把握し,合わせて日常生活での転倒予防の留意点などを指導することが望まれる。

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