2017 年 4 巻 1 号 p. 33-42
【目的】本研究では,裸足歩行時の遊脚期全体におけるつま先高さの推移の特徴について,転倒経験の影響を主として明らかにすることを目的とした。またその際,性差についても分析した。
【方法】参加者は 60 歳から 77 歳までの高齢者 88 名(転倒非経験者 56 名,転倒経験者 32 名)であった。時間正規化された遊脚期各時点におけるつま先高さの平均値と標準偏差によって構成された 166 × 202 を主成分分析にかけ,出力された第 1 から第 11 主成分までの各主成分得点について,転倒経験と性別を要因とした二要因多変量分散分析で分析した。
【結果】第 3 主成分に転倒経験の主効果(F(1 ,165)= 5.936,p < 0.05,ES = 0.031)が,第 7 主成分に転倒経験と性別の交互作用(F(1 ,165)= 7.573 ,p < 0.01,ES = 0.044)が確認された。そこでそれぞれの主成分に関連するつま先高さの軌跡を再構築したところ,性別にかかわらず転倒経験者は非経験者に比べて最少つま先クリアランス(Minimum Toe Clearance: 以下MTC)に該当する遊脚中期の最小値が遊脚期の前半に生じるような波形となっていることが確認された。また遊脚期後半については,男女ともに,転倒経験者は非経験者よりばらつきが顕著に大きいことが確認できた。
【結論】これらのことから転倒経験者と非経験者の MTC は,遊脚期の最小値という点は大きな差は認められないものの,つま先軌跡全体の中での位置づけにも着目すると,大きく異なる特徴を持つことが示された。