日本転倒予防学会誌
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4 巻, 1 号
日本転倒予防学会誌
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特集
  • 寺西 利生
    2017 年 4 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

     病棟における転倒発生は,リハビリテーションの円滑な進行を阻害する。そのため転倒発生の予測にさまざまな転倒危険度評価やバランス評価を流用する方法が提案されている。しかし,転倒危険度評価やバランス評価による転倒予測は,十分に成功しているといえない。それは,転倒危険度評価の査定には,転倒に最も影響するであろうバランス保持能力の占める割合が少なく,また,バランス評価に判別的な評価がないためと考えられる。

     Standing test for Imbalance and Disequilibirium (SIDE)は,静的立位バランス保持能力を開脚立位,閉脚立位,つぎ足立位,片脚立位の順に行い,可能な動作と不可能な動作によって低い能力から順にLevel 0,1,2a,2b,3,4 の 6 つのLevel に分ける判別的立位バランス保持能力テストである。SIDE は,検査者間信頼性(Cohen’s Kappa= 0.76)と妥当性(Berg Balance Scale との Spearman の順位相関係数は,0.93)が検証された評価である。

     回復期リハビリテーション病棟入院患者 556 名を対象に,入院 14 日以内の転倒 36 件を入院時の SIDE Level で検討した研究では,転倒者群のバランスを入院時の SIDE で表すと,非転倒者群に比べ SIDE Level は低く,SIDE Level 2b(つぎ足位は,片側だけ 5 秒以上保持可能だが,もう一方は 5 秒以内にバランスを崩す)以上で転倒の発生はなかった。すなわち,バランス良好者の転倒はまれである。

     今後,SIDE によるバランス保持能力評価に加えて,規則遵守に関わる,記憶,性格,衝動性,自身のバランス保持能力のメタ認知といった簡便な Adherence 評価を組み合わせることで,対策に結びつく,より有効な転倒危険度評価になると考える。

特集
  • 福江 亮
    2017 年 4 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

     回復期リハビリテーション病棟は機能障害の改善,ADL の向上,家庭復帰を目的に集中したリハビリテーションを実施する医療機関である。入院から退院までの間,患者の身体能力は変化し活動的になるにつれ,転倒する危険性も向上する。回復期リハビリテーション病棟の性質上,必ず転倒のリスクを伴うため,転倒予防の取り組みは必要不可欠である。

     当院では多職種による PDCA サイクルの実践と,詳細なデータ収集と分析を基にしたリスクマネジメントが特徴である。転倒予防についても,入院から退院までの PDCA サイクルをシステム化し,2 週間ごとの患者個人のミニカンファレンスや,週 1 回の病棟全体での転倒カンファレンスを中心に,多職種協働で包括的に取り組んでいる。定期的な患者個人の機能レベル・活動レベルの評価に加え,転倒アセスメント,自立チェックリスト,自室内行動チェックリストなど専門的な評価を行い,判断基準を統一している。さらに 2011 年からは「報告する文化」から「学習し進化する組織へ」と変貌を遂げるため,医療安全に関する組織を再編成し,新たに転倒転落に特化した組織「患者安全委員会」を設置した。委員会が中心となって,詳細なデータ収集や分析を行うことで,転倒カンファレンスの運営,センサーコールの管理とルール作成,転倒ラウンド,転倒事故への客観的介入,などの対策を実践してきた。5 年が経過し,設置前と比較して転倒発生件数,転倒率ともに減少傾向であった。さらに FIM 利得は年々改善傾向にあり,転倒を防ぎつつ,自立度の向上に寄与していると思われる。しかし,外出・外泊中の転倒や,骨折事故への対応が今後の課題である。

原著
  • 小枝 允耶, 柿花 宏信, 小枝 美由紀, 備酒 伸彦
    2017 年 4 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    【目的】転倒自己効力感は行動を制御する要因として働き,行動変容に関わっている。本研究は,大腿骨近位部骨折後の女性高齢者において,長期入院患者(以下,入院群)と,4 週間で退院が可能となった患者(以下,退院群)の 2 群に分けて転倒自己効力感の差異と,自己効力感に影響を及ぼす要因について生活空間の面から検討した。

    【方法】大腿骨近位部骨折にて手術療法を受け,リハビリテーションを行った女性高齢者 46 名を,入院群と退院群の 2 群に分けて術後 8 週間目までの経過を追い,運動機能,心理機能,生活空間評価(Life-Space Assessment: 以下LSA)を測定し2 群の比較を行った後,転倒自己効力感に最も影響を与えている要因について重回帰分析を行った。

    【結果】入院群 22 名と退院群 24 名について,年齢,Body Mass Index(BMI),Mini-Mental State Examination(MMSE),入院前の日常生活活動(以下,FIM),入院前のLSA は 2 群間に有意差はなく,いずれも入院前のFIMやLSA がもともと高い高齢者であった。転倒自己効力感(以下,MFES)と運動・心理機能,退院後LSA を入院群と退院群で比較した結果,8 週間目のMFES と,退院後LSA で退院群に有意に高い傾向がみられた。8 週間目のMFES を従属変数として,転倒歴,8 週間目の運動・心理機能,退院後LSA を独立変数とした重回帰分析を行った。結果,退院後LSA,8 週間目FIM が転倒自己効力感との間に有意な関連があった。

    【結論】大腿骨近位部骨折後の女性高齢者に対して術後 8 週間目の比較では,入院群に比べて退院群の転倒自己効力感の向上が有意に認められた。転倒自己効力感の改善には,日常生活活動能力に加え,自宅退院後の行動範囲の広さや,行動頻度の高さが関連していた。

原著
  • 小林 吉之, 高栁 直人, 須藤 元喜, 仁木 佳文, 持丸 正明
    2017 年 4 巻 1 号 p. 33-42
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では,裸足歩行時の遊脚期全体におけるつま先高さの推移の特徴について,転倒経験の影響を主として明らかにすることを目的とした。またその際,性差についても分析した。

    【方法】参加者は 60 歳から 77 歳までの高齢者 88 名(転倒非経験者 56 名,転倒経験者 32 名)であった。時間正規化された遊脚期各時点におけるつま先高さの平均値と標準偏差によって構成された 166 × 202 を主成分分析にかけ,出力された第 1 から第 11 主成分までの各主成分得点について,転倒経験と性別を要因とした二要因多変量分散分析で分析した。

    【結果】第 3 主成分に転倒経験の主効果(F(1 ,165)= 5.936,p < 0.05,ES = 0.031)が,第 7 主成分に転倒経験と性別の交互作用(F(1 ,165)= 7.573 ,p < 0.01,ES = 0.044)が確認された。そこでそれぞれの主成分に関連するつま先高さの軌跡を再構築したところ,性別にかかわらず転倒経験者は非経験者に比べて最少つま先クリアランス(Minimum Toe Clearance: 以下MTC)に該当する遊脚中期の最小値が遊脚期の前半に生じるような波形となっていることが確認された。また遊脚期後半については,男女ともに,転倒経験者は非経験者よりばらつきが顕著に大きいことが確認できた。

    【結論】これらのことから転倒経験者と非経験者の MTC は,遊脚期の最小値という点は大きな差は認められないものの,つま先軌跡全体の中での位置づけにも着目すると,大きく異なる特徴を持つことが示された。

報告
  • 平野 裕滋, 藤田 秀, 平野 啓祐, 阿部 潤, 杉浦 加奈子, 市原 薫, 松井 康素
    2017 年 4 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は人口 31 万人,高齢化率 24.5% の工業都市にある消防署本部が有する 2008 年から 2015 年までの 8 年間の救急出動記録をもとに,地域在住高齢者の転倒場所,転倒原因,転倒受傷部位を調査し,明らかにすることを目的とした。

    【方法】救急隊員の記録した救急出動記録より対象者 3,721 名(平均年齢 80.7 ± 7.7 歳)の 1)転倒場所,2)転倒原因,3)受傷部位に関する語句を抽出し分類集計した。得られた集計より「居室」と「道路」のそれぞれについて転倒原因,転倒による受傷部位の 2 項目について比率を算出し,居室群と道路群の 2 群間で 2 項目の比率の差についてカイ 2 乗検定を用いて有意水準 p < 0.05 で検定した。

    【結果】転倒場所は総数 3,721 名中,居室内 1,552 名(平均年齢 82.0 ± 7.5 歳),道路上 583 名(平均年齢 78.4 ± 6.8 歳)であった。また,居室内転倒者を男女別にみると男性 480 名(平均年齢 80.1 ± 7.2 歳),女性 1,072 名(平均年齢 82.8± 7.5 歳)であった。

     一方,道路上では男性 315 名(平均年齢 77.4 ± 6.6 歳),女性 268 名(平均年齢 79.7 ± 6.9 歳)であった。居室と道路の 2 群で転倒原因,転倒受傷部位の比率を算出した結果,転倒原因に関しては居室群では,「躓き」(24.0%),「ふらつき」(22.4%),「滑り」(20.6%)であった。一方,道路群では「躓き」(44.8%),「ふらつき」(21.5%),「滑り」(10.4%)であった。2 群間で比率の差をカイ 2 乗検定で検定した結果,「滑り」と「躓き」に有意性を認めた(p < 0.01)。「ふらつき」の比率に関しては 2 群間で差はなかった。転倒受傷部位では居室群において頭部(22.4%),上肢(9.7%),腰部(27.5%),下肢(33.5%),不明(6.8%)であった。道路群では頭部(60.7%),上肢(12.5%),腰部(4.9%),下肢(12.1%),不明(9.8%)であり,2 群間での比率の差は有意性を認めた(p < 0.05,p < 0.01)。

    【結論】居室内では高齢な女性が多く転倒し,受傷部位は下肢,腰部が多かった。一方道路上では男性が多く転倒し,受傷部位は頭部が多いことが明らかになった。

報告
  • 福田 圭志, 中村 英美, 光田 尚代, 井尻 朋人, 鈴木 俊明
    2017 年 4 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    【目的】主要な転倒リスク評価により後方転倒を予測できるか検証することを目的とした。

    【方法】対象は独歩または杖歩行可能な地域在住高齢者 61 名とした。対象者を過去 1 年間で転倒経験なし(Ⅰ群),後方転倒以外の転倒経験あり(Ⅱ群),後方転倒経験あり(Ⅲ群)の 3 群に分類した。3 群に対して 5 回椅子立ち上がりテスト(Five-Times-Sit-To-Stand Test: 以下,FTSST),通常歩行速度,Timed Up & Go Test(以下,TUG),片脚立位時間を計測した。なお,片脚立位では足の着地位置が,前方,後方,中間のどの方向へ着地するのかを 5 回測定した。各評価結果の 3 群間の比較には Steel-Dwass 法を用いた。また,各群の片脚立位の足の着地位置が前方着地と後方着地,中間着地のどの方向に関連するかを χ2 独立性の検定を用いて検証した。

    【結果】Ⅰ群とⅢ群間の比較では,FTSST はⅠ群が 14.2 ± 4.7s,Ⅲ群が 19.4 ± 6.3s,通常歩行速度はⅠ群が 0.8 ±0.2m/s,Ⅲ群が 0.6 ± 0.1m/s,TUG はⅠ群が 12.6 ± 4.7s,Ⅲ群が 16.9 ± 5.7s と,いずれもⅢ群が有意に劣っていた(p < 0.05)。Ⅰ群とⅡ群間ではすべてに有意差はなかった。片脚立位における測定時間は 3 群間で有意差はなかった。また,片脚立位の挙上側足の着地位置に関しても,3 群ともに足の着地位置と転倒方向の関連性はなかった。

    【結論】現在,多く用いられる転倒リスク評価のみでは後方転倒の予測は難しいが,後方転倒は下肢筋力や立ち上がり,歩行,方向転換能力のより低い高齢者に生じやすいことが示された。

総説
  • 上岡 洋晴
    2017 年 4 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2017/06/10
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

     本論は,転倒予防のための介入研究の中で,とくにランダム化並行群間比較試験における注意点の解説を行った。

     医学系研究を実施する者の基本姿勢と遵守すべきルール,研究デザインの考え方,非薬物療法評価試験としての考え方,利益相反とオーサー・シップ,機能性表示食品と転倒予防介入の関連性も概説した。「CONSORT 2010 チェックリスト」,「SPIRIT チェックリスト」,「非薬物療法評価試験のための CONSORT チェックリスト拡張例」,「折笠が推奨する 15 チェック項目」を参考にして,ランダム化並行群間比較試験において,とくに適正に計画・実施・報告すべき事項をまとめた。

     これらを参考にして研究を実施することで,試験自体とその報告の質が高まり,読者に役立つ十分な情報を提供できるようになると考える。

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