季刊地理学
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短報
社会調査を通じた手描き地図データの収集
埴淵 知哉岡本 耕平
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電子付録

2025 年 77 巻 2 号 p. 78-86

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要旨

手描き地図は,世界や都市の空間的イメージあるいはメンタルマップを把握する手法として知られる。しかし先行研究では大学生など特定の集団を対象とした調査が多く,多様な属性や経験をもつ人々のイメージを掴みきれていない。こうした状況を踏まえ,一般人口集団を対象に多様な手描き地図を収集する社会調査(GULP-2023手描き地図調査)を企画し,2023年に実査を行った。本論文は,その調査方法を記録し,記載内容の一端を集計して報告するものである。そのうえで,メンタルマップの変化とその要因を記述・分析するためには時系列的・縦断的な調査が重要であり,手描き地図データの蓄積と共有が課題であることを指摘した。

Abstract

Sketch maps are widely recognized as a method for capturing spatial images or mental maps of cities and the world. However, most previous studies have focused on specific groups, such as university students, and have not adequately captured the perspectives of people with diverse attributes and experiences. In response to this gap, we designed and conducted a social survey in 2023 — the GULP-2023 Sketch Map Survey — to collect a broad range of sketch maps from the general population. This paper documented the survey methods and presented a portion of the collected data in tabulated form. Furthermore, we highlighted the importance of conducting time-series and longitudinal surveys to describe and analyze changes in mental maps and their influencing factors, and emphasized the need for the systematic accumulation and sharing of sketch map data.

I. はじめに

空間認知研究やメンタルマップ研究は,空間をめぐる現実とイメージが異なること,またイメージが人それぞれに異なることを示すとともに,その差異の要因を明らかにしようとしてきた(中村・岡本, 1993)。手描き地図(sketch maps)は,人々が世界や都市に対して抱く空間的なイメージの地図的表象であり,メンタルマップを観察する手法として長らく利用されてきた。むろん,イメージと描かれた地図が一致するわけではなく,描画能力などによって両者の間には乖離がある。しかし限界を抱えつつも,手描き地図は世界や都市の空間的イメージに関する何らかの特徴をとらえており,それゆえ空間認知に対する理解を深める一つの手法として利用されてきたと考えられる。

手描き地図を利用した代表的な研究例として知られるのは,まずケヴィン・リンチによる『都市のイメージ』(リンチ, 2007)であろう。手描き地図は被験者の都市のイメージを呼び起こす一つの手法として用いられ,同書ではボストン市街などを事例に,都市の「わかりやすさ」がいかに構成されるのかが論じられた。ここから導かれた都市のイメージを構成する要素(ノード,ランドマーク,パス,エッジ,ディストリクト)は広く知られている。また,トーマス・サーリネンによる手描き世界地図に関する研究(サーリネン, 1976)も代表的なものといえる。サーリネンによる国際的な研究は,世界各国の大学生を被験者として手描き世界地図を収集し,その特徴を探るものであった。とくに,1980年代後半に世界52カ国から3,500以上の手描き世界地図を収集した The Parochial Views of the World study(Saarinen, 1999)はその規模や国際的広がりにおいて類を見ないものであった。このような研究は地理教育の観点からも注目され,日本でも生徒・学生のメンタルマップに関する議論が蓄積されている(森本, 2007; 栗山, 2023)。

ところで若林(2024)は,メンタルマップの多様性をもたらす要因群として,主体(個人)と対象(地域)それぞれの要因,およびそれらの相互作用,さらにその背景をなす社会的・文化的状況の存在を指摘している。この指摘を踏まえるならば,まず,多様な主体が描く手描き地図の差異に注目する必要がある。またそれは単なる個人差というよりも,属性や意識,経験などの差異によって系統的に生じる可能性がある。しかし先行研究では,教育現場で大学生など特定の集団を対象に被験者を募り,手描き地図を収集することが多かった。結果として,これまでのデータは年齢や学歴などが限定的であり,主体側の要因を十分に議論できていない点に課題が残されている。

本論文は,一般人口集団(general population)を対象とする統計的社会調査の枠組みを用いて,手描き地図を多様な個人から横断的に収集した結果の報告である。これにより,描画主体の限定性という課題を克服し,メンタルマップ研究の基礎資料を提供するねらいをもつ。対象とした手描き地図の種類は,世界地図と都市図の二種類である。とくに都市図では,21の異なる都市に住む被験者に自身が住む都市の案内図を描いてもらうことにより対象(地域)の要因の検討も可能になる。また,地図だけでなくアンケート調査を通じて被験者の意識や属性のデータも併せて収集することで,系統的な要因分析が可能なデータ構築を図ることとした。これらは,若林(2024)が示したメンタルマップの多様性をもたらす要因群(の一部)を,定量分析可能なデータとして構成する試みでもある。さらに,調査手法およびデータの共有と二次分析を促進することも目的とする。

II. 調査の方法

手描き地図の収集にはインターネット社会調査の枠組みを利用した。全体の流れは次のようなものである。まず,登録モニターを対象とするウェブ形式の調査を行い,そこで年齢や職業,方向感覚などの様々な質問に対する回答を収集した。その最後に,手描き地図を作成するという追加的なタスクへの協力者を募集するページを設け,応募する場合には郵送先住所を記入するよう求めた。後日,同意を得た回答者に対して郵送で依頼文と記入用紙,返信用封筒を送付し,期日までの記入と返送を依頼した。そして返送された手描き地図をスキャンして画像データ化するとともに,基本的な事項についてコーディングを行い,前半のインターネット調査回答データとの紐づけも実施した。

前半のインターネット社会調査には,GULP(Geo-social survey for Urban Lifestyle Preferences:都市的ライフスタイルの選好に関する地理的社会調査)の2023年追跡調査(以下,GULP-2023)を利用した。GULPは2020年に実施された大規模インターネット社会調査であり(埴淵, 2022),主たる調査である「大都市調査」の三年後追跡調査として企画されたのがGULP-2023である。2023年10月31日から11月10日にかけて,GULP-2020の回答者(n = 30,000)のうち登録を継続していた全モニター(n = 23,080)に回答を依頼し,11,268名から回答を得た(追跡率 = 37.6%)。なお,対象は2020年調査の時点で20 - 69歳であった21大都市(東京特別区と政令指定都市)の住民である。調査項目には,2020年との同一設問による個人属性と地域環境,そしてメンタルマップとの関連を想定して組み込んだ,高校「地理」選択および方向感覚に関する設問が含まれる。GULP-2023を手描き地図調査の土台として利用したのは,意識・行動・属性に関する多様な調査項目を紐づけて分析できることと,単独での実施が費用面で困難であったことによる。

地図を描く追加調査(以下,GULP-2023手描き地図調査)に対する協力を求めたところ,5,334名が応諾の意思を示した。このうち,2023年調査時点においても21大都市に居住する70歳未満の回答者から,性別・年齢・都市の偏りに留意しつつ1,400名を抽出し,地図調査の対象者とした。インターネット調査で記入された住所宛に依頼・記入用紙等を郵送配布し,返信用封筒により記入済みの用紙を郵送で回収した。実査は2023年11月~12月にかけて行われ,有効回収数は957(回収率68.3%)であった。このような手順により,多様な属性をもつ一般人口集団から多数の手描き地図が収集された。ただし,インターネット調査のモニター特性やGULP-2023の追跡率には様々な偏りがあるため,これが全住民の縮図となる代表サンプルとはいえない点に留意が必要である。

調査では,依頼状(電子付録S1)とともに,二枚の記入用紙(電子付録S2)を対象者に送付した。1枚は世界地図,もう1枚は都市の案内図を手描きしてもらうための用紙である。紙のサイズはB4であり,上部に簡単な回答指示文を書き,その下に地図の記入枠(230 mm×230 mmの正方形)を黒の実線で囲んで示した(第1図)。用紙および記入枠の大きさは,手描き地図を十分詳しく描くことができるよう,いくつかのパターンを試したうえで決定した。また枠を正方形としたのは,横長の長方形とすることで特定の地図投影法に基づく世界地図(メルカトル図法など)を想起させるのを避けるためである。その効果を特定することは難しいものの,回答者からは「横長にしてほしい」との意見があった一方,周囲を円で囲んだ地球儀的な表現も散見された。

なお,監督者が不在となる自記式調査の懸念点は主に二つあり,一つは短時間で回答を終了させようとする省力回答,もう一つは,何も見ずに描くようにとの指示に反して資料を見てしまう「不正」回答である。前者は結果的に描き込みの量を少なく,後者は逆に多くする方向に働き,いずれも調査法に起因するバイアスをもたらすことになる。また,教室で学生に描いてもらうような場合(一種の集合調査)とは異なり,調査側が回答時間や回答行動を制御することはできないため,自記式調査においては回答指示文がきわめて重要な意味をもつ。説明が冗長で複雑なものになると,回答者の負担が大きくなり調査協力を得ることが難しくなる。逆に説明が短すぎて指示が不明確な場合には,調査側の意図と異なる内容が記入されるなどの問題が生じうる。

そこで本調査では,必要最低限の情報や意図を示しつつ可能な限り自由に描いてもらえるよう,また分かりやすい文面と短い分量でそれが伝わるよう,簡潔な説明文を記入欄の上に記すこととした(第1図,電子付録S2)。世界地図については「枠のなかに『世界地図』を描いてください」「位置と名前がわかるすべての国・地域を描いてください」「それ以外にも,重要だと思う要素を自由に描いてください」,都市図については「枠のなかに『お住まいの市の案内図』を描いてください」「描き込む内容は自由です。はじめてこの市(あるいは町村)を訪れた人に説明する気持ちで,市の特徴として重要だと思うものを描いてください」「描く範囲も自由です。ただし,市の特徴を十分に説明できる範囲をお考えください」「東京23区にお住まいの方は,23区全体を一つの市とみなしてお考えください」と書き,共通して「スマホや地図帳はいっさい見ずに,あなたのイメージをそのまま描いてください」「正解・不正解はありませんので,不完全であっても(誤りがあっても)かまいません」「頭に浮かんだ内容はすべて,なるべく詳しく描き込んでください」との指示文を並べた。さらによくある質問として想定される内容をQ&A形式でまとめ,QRコードからアクセスして参照できるようにすることで,より詳しい説明を求める回答者のニーズに応えられるよう努めた(電子付録S3)。なお,この記入用紙およびQ&Aの作成に際しては,クラウドソーシングを用いた予備調査(2023年9月,n = 30)を実施し,得られたフィードバックを参照しながら修正を重ねた。

調査の結果,世界地図と都市図それぞれ957枚の手描き地図が収集された。個々の地図はきわめて多様であり,そのままで何らかの傾向や特徴を読みとることは難しい。そこで,地図に描かれた様々な内容のうち,基本的な項目についてはコーディング処理を行った。具体的には,世界地図の記載内容(国境線,大陸名,山脈名,都市名,赤道などの記載の有無)と個々の国・地域の記載の有無,都市図の記載内容(市区の境界線,鉄道路線,道路,河川,寺社などの記載の有無)について,目視による判読を行い,記載の有無を記録してデータ化した。さらに,各地図の作成者が事前のウェブ調査において回答したデータとのリンケージを実施した。これにより,たとえば年齢や職業,そして高校「地理」選択の有無などによって,手描き地図の記載内容が異なるのかどうか,異なるとすればそれがどの程度なのかを,定量的に把握することが可能なデータを構築した。

第1図  手描き地図の記入用紙と記入例

III. 収集データの概要

ここで,収集された手描き地図から読みとれる基本的な内容についての集計結果を示しておく。第1表には,手描き地図調査の回答者の属性と経験に関する分布を示した。回答は全国の20-60代から幅広く得られており,学歴や就労状況などを含めて多様な人口学的・社会経済的特性をもつ。この点はメンタルマップ研究に対する本データの大きな強みといえよう。ただし,同調査は大都市限定であり,無作為抽出標本ではなく,インターネット調査ゆえの偏り(埴淵・村中, 2018)を伴う。また,若年層の回答が著しく少なくなったことは同データの大きな課題である。これは同調査が2020年から3年後の追跡調査であるため,20 - 22歳が対象外であることと,若年層ほど脱落率が高いことによる。なお,高校「地理」の選択者は回答者の約半数,日本以外の国への訪問経験をもつ回答者は8割近くに達した。こういった多様な経験は,メンタルマップの多様性を系統的に作りだす要因となっている可能性がある。

第2表は,世界地図に描かれた主な内容を集計したものである。手描き世界地図については,指示文に国・地域の記載を含めたこともあり,海岸線と国境線からなる国・地域の形状とその名称を描いたものが多くみられた。島や海洋の名称を記載した地図も一定数にのぼる一方で,都市や山脈,河川といった内陸部の要素の記載はそれらに比べると限定的であった。また様々なイラストや情報を描き込んだ詳細な地図,赤道を描いた地図も一定数みられた。第3表は,記載された名称をもとに,描かれた国・地域の上位20件を示したものである。国・地域の名称としては,面積や人口,経済力などが大きいものが上位を占めた。ただしそれ以外にも,日本との距離や国際関係,あるいは特徴的な位置・形状をもつ国・地域が描かれやすい傾向などが確認できる。

第4表は,都市図として描かれた都市の数を示したものである。概ね人口規模に比例するものの一定の誤差があり,とくに東京特別区をはじめとする東京大都市圏の都市が多い。一方,人口の少ない新興政令市では回収数が20未満のところもあり,各都市で何らかの集計や統計分析をおこなうのに十分な数とはいえない。第5表は,都市図に記載された内容を集計して示したものである。なかでも多いのは市区およびそれ以外の地名,市区の境界線や外周線,鉄道駅や路線の図形または名称などである。ただしそれらの記載割合は,高いものでも50%台にとどまる。他にも商店,公園,城,寺社,大学,橋など様々な要素が描かれており,全体として世界地図よりも表現が多様で記載事項が分散する傾向にあった。また,名産品・観光情報の記載が一定数みられたのも特徴といえる。

以上の集計は個々の手描き地図を一定の基準でコーディングした結果であるが,そのような要約的な処理を経たデータからも,多様な世界および都市のメンタルマップの存在がうかがえる。そして,本データではそういった手描き地図の諸特性を,描いた人の属性や経験,意識との関連から定量的に分析することもできる。たとえば手描き世界地図について,記載内容に関する定量的な要因分析は少ないとされるものの(Pinheiro, 1998),GULP-2023手描き地図調査を用いた試行的な分析から,年齢や学歴が高く方向感覚が優れている人ほど多くの国・地域を記載する傾向や,面積が大きく,新聞記事の件数や在留外国人数が多い国・地域ほど描かれやすいといった傾向が指摘されている(埴淵, 2024)。このように同データは,メンタルマップの多様性(若林, 2024)をもたらす主体(個人)と対象(地域),そして両者の相互作用を分析可能な形式のデータであり,今後のより詳細な分析が期待される。

なお,実際の描画内容はさらに千差万別であり,たとえば世界地図を地球儀的な構図で描いてあるものや,都市を鳥瞰図的に3D表現で描いたものなど,個々に見るだけでも興味深いものが数多くある。こういった多種多様な手描き地図を簡便なコーディングによって数量化するだけでなく,個々の画像を回答者の経験や意識に照らして詳しく読み解く作業や,例外的な表現に反映される個性的な世界・都市イメージを掬い上げるといった試みも重要であろう。また,描画内容をAIによって識別し,ある程度までの判読作業を自動化することも検討すべき課題に挙げられる。

第1表 回答者の特徴

(n=957) n %
年齢 20代 27 2.8
30代 129 13.5
40代 232 24.2
50代 333 34.8
60代 236 24.7
性別 男性 499 52.1
女性 458 47.9
配偶関係 配偶者あり 610 63.7
未婚 269 28.1
離別・死別 78 8.2
最終学歴 中学校・高校 125 13.1
高専・短大・専門学校 234 24.5
大学 510 53.3
大学院 85 8.9
不明 3 0.3
就労状況 フルタイム 555 58.0
パートタイム 168 17.6
求職中 35 3.7
在学中・退職後・
専業主婦/主夫など
199 20.8
地理選択 はい 472 49.3
いいえ 368 38.5
わからない 75 7.8
該当しない 42 4.4
訪問国数 1か国 198 20.7
2~4か国 391 40.9
5~9か国 199 20.8
10~19か国 119 12.4
20か国以上 50 5.2

GULP-2023をもとに筆者作成

第2表 手描き世界地図の記載内容

(n=957) n %
陸地の形状(海岸線) 950 99.3
国の名称 850 88.8
大陸・地域の名称 806 84.2
国の形状(内陸部の国境線) 597 62.4
島の名称(国を除く) 399 41.7
南極大陸の形状 392 41.0
海洋の名称 234 24.5
北極の形状 187 19.5
都市の名称 116 12.1
半島の名称 94 9.8
赤道 69 7.2
イラスト・装飾・着色 64 6.7
名所・名物・観光情報 62 6.5
海峡・運河の名称 53 5.5
山・山脈の名称 53 5.5
解説(国際情勢など) 32 3.3
湖の名称 29 3.0
河川の名称 25 2.6
外周線(地球の形(〇)や地図の外側の線) 12 1.3
方位記号 11 1.1
経緯線(赤道を除く) 8 0.8

GULP-2023手描き地図調査をもとに筆者作成

第3表 記載国・地域数(上位20件)

(n=957) n %
オーストラリア連邦 796 83.2
日本国 789 82.4
ロシア連邦 786 82.1
中華人民共和国 783 81.8
アメリカ合衆国 743 77.6
カナダ 682 71.3
インド 654 68.3
ブラジル連邦共和国 574 60.0
英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国) 564 58.9
大韓民国 518 54.1
フランス共和国 453 47.3
メキシコ合衆国 441 46.1
イタリア共和国 432 45.1
ニュージーランド 431 45.0
チリ共和国 416 43.5
北朝鮮 407 42.5
スペイン王国 390 40.8
ドイツ連邦共和国 376 39.3
アルゼンチン共和国 374 39.1
南アフリカ共和国 369 38.6

GULP-2023手描き地図調査をもとに筆者作成

国・地域名は外務省ウェブサイトによる

第4表 手描き都市図の対象都市

(n=957) n %
東京特別区 249 26.0
横浜市 104 10.9
大阪市 68 7.1
札幌市 62 6.5
名古屋市 52 5.4
川崎市 43 4.5
さいたま市 39 4.1
福岡市 38 4.0
神戸市 35 3.7
京都市 29 3.0
仙台市 29 3.0
広島市 24 2.5
千葉市 21 2.2
浜松市 20 2.1
北九州市 20 2.1
堺市 19 2.0
新潟市 18 1.9
静岡市 18 1.9
熊本市 16 1.7
相模原市 16 1.7
岡山市 15 1.6
不明・その他 22 2.3

GULP-2023手描き地図調査をもとに筆者作成

第5表 手描き都市図の記載内容

(n=957) n %
市区の名称以外の地名 565 59.0
鉄道駅の名称 564 58.9
鉄道駅の描画(地下鉄含む) 559 58.4
市区の名称 524 54.8
鉄道路線の描画(地下鉄含む) 498 52.0
市区の境界線 440 46.0
市の外周線 421 44.0
鉄道路線の名称 381 39.8
商店・商店街・商業ビル・百貨店の名称 341 35.6
公園・緑地などの名称 312 32.6
名産品・観光情報 261 27.3
河川の描画 244 25.5
官公庁の名称 244 25.5
城・城跡(皇居を含む)の名称 236 24.7
河川の名称 230 24.0
道路の描画 222 23.2
球場・競技場などの名称 222 23.2
範囲外の地名参照(「→〇〇市へ」等) 218 22.8
動物園・植物園・水族館などの名称 216 22.6
寺社の名称 214 22.4
タワーの名称 213 22.3
道路の名称 178 18.6
海・湾の名称 169 17.7
空港の名称 160 16.7
山の名称 139 14.5
山の描画 120 12.5
工場・オフィス(企業関連)の名称 120 12.5
大学・学校などの名称 120 12.5
高層ビル 115 12.0
遊園地・テーマパークなどの名称 109 11.4
ショッピングモール・アウトレットの名称 104 10.9
図書館・博物館などの名称 82 8.6
港湾の名称 78 8.2
橋の名称 72 7.5
3D表現 66 6.9
池・湖沼の名称 57 6.0
劇場・映画館・コンサートホールの名称 45 4.7

GULP-2023手描き地図調査をもとに筆者作成

IV. データの公開方針と今後の課題

手描き地図は,空間認知やメンタルマップの研究のみならず,地理教育の観点からも有用な手法であり続けると思われる。とくに,地図データの共有と蓄積による研究・教育利用の促進は,今後ますます重要になる。たとえば,全国の大学や高校の授業を通じて作成された手描き地図を集約することができれば,それだけで貴重なデータとなるだろう。しかし,実施手順や作業内容の詳細はおそらくそれぞれに異なっており,無条件に合算できるものではない。かつてサーリネンが世界各地の大学に対して実施したような,一定の標準的な調査法(記入用紙や作業内容の指示文など)を現在の日本の環境に合わせて作ることも,一案として検討に値するかもしれない。

GULP-2023手描き地図調査については,以下のようなデータ公開方針をとる。まず,使用した依頼文と記入用紙(作業内容の指示を含む),Q&Aを本論文の電子付録として公開する(電子付録S1, S2, S3)。さらに,手描き地図の画像と,表2, 3, 5に示したようなコーディングの結果,そして回答者の属性や意識,経験に関するアンケートの回答データについても,合理的な研究目的に基づく利用申請があればローデータを提供する。申請・利用にあたっては一定のルール(提供可能な範囲・目的,プライバシー保護やデータ出典の明記など)が適用されるものの,二次利用者にとっては調査コストを節約することができるため,研究・教育に広く資することが期待される。なお,アンケートにはプライバシー関連の情報が含まれること,手描き地図の一部には,特定の国・地域や都市に対する政治的なメッセージや個人的な見解などセンシティブな内容も含まれることから,無条件でダウンロード可能なリポジトリ等への掲載は予定していない。

調査に関する今後の課題としては,時系列ないしは縦断調査によって,継続的にデータを蓄積していく必要性が指摘される。それによって,メンタルマップの個人的あるいは世代的な変化を記述することができ,そういった変化をもたらす社会的・文化的背景を分析的に議論することも可能になる。たとえば栗山(2023)は,同じ高校生の1年次と3年次の手描き地図を縦断的に分析することで,認知地図に表れる変化を明らかにした。同様の分析を,一般人口集団を対象により長い追跡期間で行うことができれば,空間認知に影響する社会的・文化的状況を広範に探ることも可能になる。たとえば,デジタル化の進展や地理総合の開始,国際情勢の不安定化などの影響が検討課題として考えられる。その際,継続的なデータ収集は,何らかのイベントが生じた前後での比較を通じて影響を探ることを可能にする点で,とくに重要である。たとえば,コロナ禍による「在宅」や「リモート」の経験は人々が都市や世界に対して抱くイメージをどう変えたのか,またその影響は世代や職業によって異なるものだったのか。このような問いに答えるためにも,今後の時系列的・縦断的な調査の実施とデータの共有・蓄積が求められる。

付記

調査にご協力頂きました皆さまに心より感謝申し上げます。記入用紙の設計に際して東京都立大学の若林芳樹先生から貴重なご助言を頂きました。「GULP-2023大都市追跡調査」は京都大学教育研究振興財団研究活動推進助成および私立大学等経常費補助金特別補助(立命館大学)を,また「GULP-2023手描き地図調査」は公益財団法人三菱財団2023年度助成を受けて実施されたものです。なお,内容の一部は2024年日本地理学会春季学術大会および秋季学術大会,京都大学アカデミックデイ2024において発表しました。

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