抄録
奥羽山系翁峠周辺の小湖沼を地方湖沼学的に位置づけようとする研究の一部をなすもので, ここでは鍋沼 (鍋越地区) について, 無機環境の特徴を論ずる。まず, 湖盆形態の実測から, 表面積は0.57haにて小さいが, 最大水深は7.60mにおよび肢節量が1.17にて小さいことが明かにされた。湖水の水質を年間にわたってみると, 全蒸発残留物は100mg/l以下にすぎず, 表面水中の溶存主成分の含有量 (当量) 間には, 通年Na+>Ca2+>Mg2+,HCO-3>Cl->SO2-4が成り立つ。ただし, 積雪中の風送海塩の影響を強く受ける4月のみ, 例外的にCl->HCO-3>SO2-4となる。また凝灰岩地帯の湖沼の水質の特徴を示し, ケイ酸塩が多く溶存し, SiO2として約20mg/l含まれる。年間における水温の垂直分布の推移は典型的な温帯湖の型を示し, 盛夏には水温・化学成層が顕著に発達する。なお, 底質に関しては, キエルダール窒素が0.30%, 灼熱減量が14.2%定量されたにすぎない。これらの無機環境の観測から, この湖沼は貧栄養湖に当てはまることが明かになった。