本稿は, 標準人口移動率による重力モデルを用いて, 日本高度経済成長期 (1955~1972) における国内人口移動に対する転入地と転出地の所得水準の影響を時空間的に分析した。全都道府県間の人口移動については, 転入地の所得水準が終始最も重要な要因であるものの, その効果が一貫した傾向で年々低下した。それに対して, 転出地の所得水準の効果は目立った傾向は見られないが, 転入地のそれの低下にともない相対的に増大したと考えられる。ただし, いずれの年次においても, 転出地の所得水準が人口転出に促進要因として働いていた。さらに人口移動を転出地と転入地の性格によっていくつかのタイプに分け, それぞれの類型ごとに転入地と転出地の所得水準の影響力とその年次変化を分析した。その際の類型化の枠組としては, (1) 転出地と転入地の所得格差による類型化, (2) 大都市圏と非大都市圏相互の移動に関する類型化, (3) 46都道府県ごとの人口移動の分類の3つである。その結果, それぞれの類型化においては, 各類型の空間パターンと, 転入地と転出地の影響力の時系列変化には, それぞれ一定の秩序が存在していることが明らかになった。