季刊地理学
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構造政策下の北海道馬鈴薯生産性の増大とその地域性
土井 時久
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1994 年 46 巻 4 号 p. 255-268

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抄録

1961年に成立した農業基本法は, 農業と他産業との所得格差を是正し, 需要の新たな動向に応じた選択的拡大をはかろうとするものであった。これを具体化するために数次にわたる農業構造改善事業が実施された。しかし, 過去30年を振り返ると, 府県では農業所得の不足を農外所得で補う兼業農家が増加した。北海道畑作の場合は, 離農と規模拡大が進行し, 構造改善事業によって機械化が助長された。
北海道畑作の機械化は, 単に労働と機械の代替を意味するものではない。畜耕からトラクター耕への変化は, 深耕を可能にし, これが肥料投入量の増加をもたらした。また, 防除機の高能率化による適期作業と相まって, 土地生産性の上昇をもたらした。この傾向は, 根菜としての馬鈴薯の場合とくに顕著で10アール当たり2トンから4トンになっている。
馬鈴薯の主産地である十勝と網走を比較すると, 網走の10アール当たり収量の増加が著しい。これは, 網走における生産が, 依然として澱粉原料むけの高収量晩生種を主としているのに対して, 十勝では, より高価格な食用・加工用の早生・中生種で収量の低い品種に傾斜していることを反映している。両地域の相違は, 網走では病害を克服できず食用への転換が困難であったという技術的な制約と商品生産に対する十勝の積極的な姿勢によって生じている。
北海道馬鈴薯生産の事例は,「作物統計」などにみられる土地生産性の地域差の意味を読みとる場合に, その背後にある社会経済的要因を十分理解することの重要性を示している。

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