2022 年 38 巻 1 号 p. 19-26
腫瘍内に投与したマグネタイト正電荷脂質複合粒子(MCL粒子,マグネタイト正電荷リポソームから改称)に発熱を誘導する交番磁場を反復照射することにより,腫瘍内の壊死領域が段階的に拡張することが報告されている.本研究は,MCL粒子の腫瘍内分散プロセスと壊死誘導様式を解析し,治療プロトコールを再検証することを目的とした.
MCL粒子投与後の磁場照射により,生存腫瘍組織と明瞭な境界を有するアメーバ状の壊死領域が形成されることが示された.壊死領域と生存領域の境界に中間的特徴を有する細胞は観察されず,近接する生存腫瘍細胞が壊死領域から受ける伝熱の作用は微弱なレベルと考えられた.また,MCL粒子は磁場照射24時間後には,壊死領域から近隣の生存領域へ分散移動し生存腫瘍細胞の間隙に蓄積していることが確認された.電子顕微鏡観察の結果,分散移動したMCL粒子に構造的な大きな変化は認められず,後の磁場照射においても壊死誘導に寄与し得るものと推察された.これらの結果は,温度指標の代替として提言した発熱量基準の施術管理指標と整合し,更にMCL粒子の分散移動を意図したインターバル工程の必要性と反復照射におけるMCL粒子の再利用性の根拠を提示するものと考えられた.一方,MCL粒子の周辺正常組織への浸潤は認められず,粒子分散の駆動力と併せて,そのメカニズムについても考察した.