抄録
【はじめに】
認知機能検査として,改訂長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEがよく用いられる.これらの検査項目の内容としては,見当識,短期記憶,注意,作業記憶などであり,これらの大まかな程度は把握できるが,詳細な評価を行うには他の評価方法が必要である.作業記憶の評価方法としては,前頭連合野機能を検査するn-back課題やPASATなどがあるが,これらのテストは高齢者にとって難易度が高く,より簡便に前頭連合野の活動を考慮した検査が必要であると考えられる.そこで本研究では,認知症や高次脳機能障害を有する高齢者の作業記憶を簡易に評価する検査方法の開発につなげる基礎的研究として,数字・図形・色を用いた作業記憶課題の作成を行い,光トポグラフィ装置を用いて,各課題(数字・図形・色)遂行時の前頭連合野の賦活の特徴を明らかにすることを目的とする.
【方法】
対象は健常成人6名(男性5名,女性1名,平均年齢25.7±1.4歳)とした.全被験者には口頭で研究の趣旨を十分に説明し,同意を得てから行った.脳血流変化の測定には,光トポグラフィ装置ETG-7100(株式会社日立メディコ製)を使用し,3列×10行のプローブ(計47チャンネル)を前頭連合野領域に装着させて計測した.
解析としては,前頭連合野領域の酸素化ヘモグロビン(以下,oxy-Hb)量の平均値を算出した.課題は,パソコンの画面上に順次表示される数字/図形を記憶させ,2つ前と同じ数字/図形であれば合図するように指示した.条件1は数字(1~5),条件2は天気に関連する図形,条件3はそれぞれには関連のない図形(○☆□×△),条件4は色(赤,青,黄,緑,紫)であった.一課題は40秒間(表示時間:0.5秒,表示間隔:2.0秒)とし,その間の脳血流量を測定した.左右のoxy-Hb値の比較には,対応のあるt検定(p<0.05)を用いた.
【結果・考察】
前頭連合野領域のoxy-Hbは,すべての条件において増加し,左と比較して右半球において有意に高い値を示した(p<0.05).条件ごとに比較すると,前頭連合野領域全体では,条件1において最高値を示し,条件4では最低値を示した.また左右差では条件4で最大となった.条件2,3は,前頭連合野の全体,左右半球でそれぞれ有意差を認めなかった.条件1において,oxy-Hbが最も増加したことから,最も前頭連合野の活性化が起こることが示唆されるが,左右差が小さく,細かい変化を判定することは困難であると予想される.しかし,条件4において,左より右半球で高い値となったことは,色が他の課題と比較して,形(イメージ)としてとらえやすかったことが推測された.
以上の結果から,課題ごとに脳賦活の程度や領域が異なることが示唆され,新たな検査バッテリーを作成していく上で有効な基礎資料となることが考えられる.