東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P068
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上位胸椎へ直接浸潤のあった原発性肺癌に対し肺区域切除および胸椎合併切除術を施行された一症例
*吉田 信也染矢 富士子
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抄録

【はじめに】
 肺気腫の多発ブラに加え,胸椎へ直接浸潤のあった原発性肺癌に対し肺区域切除術および3椎体にわたる胸椎合併切除術を施行された症例を経験した。その理学療法経過に本症例の術後運動耐容能の回復に要した期間に関する考察を加え報告する。
【症例紹介】
 症例は49歳男性で身長159cm,体重45kg,BMI17.8である。嗜好歴はタバコ30本/日×30年,アルコール2合/日である。4月頃より左前胸部痛あった。A病院受診し経過観察となっていたが症状改善せず,胸部CT上で左肺上葉に結節影と胸膜肥厚を認めていたため,精査目的にて当院呼吸器内科に入院となった。胸部MRIでは胸膜浸潤,肋骨浸潤,椎骨浸潤も疑われ,翌年12月に左肺上区域切除,左肺ブラ切除,第3~5胸椎合併切除術施行となった。
【理学療法経過】
 術前は呼吸理学療法の指導および6分間歩行テスト(以下6MWT)にて運動耐容能の評価を行った。6分間歩行距離(以下6MD)は480mであり,歩行後の修正Borg Scaleを用いた主観的運動強度(以下RPE)は1,SpO2は97%であった。術前呼吸機能は%肺活量92.5%,1秒率66.2%であり,胸部X線では両側肺とも気腫性変化が強く,巨大ブラも多数認められた。日常生活において呼吸困難感を自覚することはなかった。
 術後1病日は酸素3L投与,安静度は胸椎固定部の安静のためギャッチアップ90度までであった。術後4病日に酸素投与終了となり,体幹装具完成後に安静解除され,術後6病日から歩行開始となった。その後,病棟での歩行練習を中心にリハを行い,胸腔ドレーン,CVCが抜去され病棟内の独歩が自立した術後15病日に6MWTを実施した。その結果,6MDは440mであり,術前よりも歩行後の呼吸困難感の程度が強くRPEは7,SpO2も94%まで低下していた。入院期間中は継続して運動療法を実施し,術後29病日に退院となった。術後36病日に化学療法を1回行った。術後43病日に再度6MWTを実施したところ,6MDが495mであり術前値を上回る程度まで改善を認めた。歩行後のRPEは10,SpO2は94%であった。
【考察】
 一般的に肺切除術のみの場合,術後の運動耐容能の回復には2~3週間必要であるとされている。術後15病日において6MDが術前値程度まで達していたことは,胸椎固定術のため術後6日間の安静期間があったことを考慮すると,良好な経過であったと考えられる。術後43病日において6MDは術前値を上回る程度まで改善したが,歩行後のRPEやSpO2など運動耐容能の改善が不十分であったことに関しては,肺気腫や術後の化学療法の影響,退院後の低活動などが原因として考えられた。

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