東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P070
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重錘を用いた呼吸法への介入効果について
*川上 勇一和泉 謙二早川 和秀法月 香代
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キーワード: 重錘, 呼吸法, 横隔膜
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抄録

【目的】  呼吸器疾患患者では胸式優位呼吸がよくみられる。しかし換気効率が悪く、呼吸補助筋の疲労や呼吸困難感を招き易い。それに対する腹式呼吸への誘導としては胸腹部の動きを手で感じ取りながら行う方法が一般的である。冨田らは背臥位にて胸郭及び骨盤に対し重みを提供する事で、過剰となり易い背部伸筋群の活動を抑制し横隔膜による吸気を促す効果が期待できるとしている。本研究では一般的な誘導方法と重錘を使用した方法の呼吸法への介入効果を比較検討し、若干の知見を得たので報告する。 【方法】  当院及び併設老健にてリハ実施中の呼吸器疾患を有する症例16名(男性8名、女性8名、平均年齢78.9±11.1歳、BMI20.9±4.6)を対象とした。計測姿勢は背臥位とし、安静時、腹式誘導時(腹式時)、重錘使用時(重錘時)の3つの条件でそれぞれの呼吸数、SpO2、腹式呼吸grade(grade)、VAS変法を計測した。順番はランダムに選択し、計測前に呼吸が安定する為の準備時間を設け、各条件3分間ずつ計測した。腹式時は症例の手をそれぞれ胸部・腹部に当て行った。重錘時は下部胸郭と骨盤に体重の1割程の重錘バンドを振り分けて載せ、腰椎前彎部とベッド面の空間を埋めるようタオルを敷いた。求めた平均値から呼吸数、SpO2は対応のあるt検定、grade、VAS変法はWilcoxonの符号付順位検定にて比較した。 【結果】  呼吸数は安静時19±5.3回/分、腹式時17.1±5.7回/分、重錘時15.7±6.2回/分、安静時・腹式時(p<0.01)、安静時・重錘時(p<0.01)、腹式時・重錘時(p<0.05)いずれにおいても有意差を認めた。SpO2は安静時95.8±2.7%、腹式時96.5±2%、重錘時96.7±2.2%で差を認めなかった。gradeは安静時2.9±0.8、腹式時3.4±0.6、重錘時3.5±0.7、安静・腹式時、安静・重錘時において有意差を認めた(p<0.05)。VAS変法は安静時5、腹式時4.4±1、重錘時4.6±1.5で差を認めなかった。 【考察】  介入効果として腹式時、重錘時共に呼吸数減少とgradeの改善が有意に認められた。これは胸式から腹式への誘導により深呼吸化が図られた結果と考えられ、重錘使用が腹式誘導に有効である可能性が示唆された。さらに腹式時に比べ重錘時で呼吸数減少が有意に認められた。これは重錘による重みとタオルによる支持面拡大にて背部伸筋群での胸郭‐骨盤間の過剰な連結を抑制した事が従来からの腹式誘導とは異なり、横隔膜での吸気の促しだけでなく呼吸補助筋の活動抑制から呼出にも有効であった可能性が考えられた。
今回、症例数や評価の指標が少ない事から今後も継続した検証が望まれる。臨床での実施に当たっては横隔膜機能の程度により腹式誘導が努力性呼吸を強める可能性も考慮し、個々の反応から最適な誘導方法・条件を設定する事が必要と思われた。

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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