東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-050
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脳血流応答に影響を及ぼす末梢の代謝特性からみた筋疲労の検討
*石井 秀明西田 裕介
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キーワード: 乳酸, 血糖, 脳血流
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抄録

【目的】運動時の疲労には、中枢と末梢の要因が想定され、それらが相互に関係しながら生じると考えられている。その複雑さゆえに、運動性疲労は未解明のままであるが、両者の関係性を念頭に置きながら検討していく必要がある。近年、脳グリコーゲンの減少が中枢性疲労に関係すると報告されている。脳グリコーゲンの減少は、筋・肝のグリコーゲンの減少による低血糖と関係するとされている。つまり、末梢の代謝の亢進が脳へ入力され、疲労を引き起こす可能性があると考えられる。そこで、今回、負荷強度の異なる持続的な把握動作を用いて、末梢の代謝と脳活動の関係から筋疲労を検討した。
【対象と方法】対象は、若年健常男性11名とした。全対象者には、事前に実験の目的と方法を文面及び口頭で十分に説明し、参加の同意を得た。測定は、背臥位で5 分間の安静後、設定負荷強度で持続的な把握動作を120秒間実施した。設定負荷強度は最大随意収縮(Maximal Voluntary Contraction: MVC)の10%、30%、50%とした。測定は2日に分けて行い、1日目は測定中随時、筋電図計、安静時と運動直後に血中乳酸濃度と血糖値、2日目は随時、脳血流を測定した。筋電図計の解析には、中間パワー周波数(Median Power Frequency: MdPF)を用いて,高速フーリエ変換を行い,運動開始3秒間および運動中120秒の前後5秒以内で安定した3秒を対象に平均値を算出した.脳血流の計測は、近赤外線分光法による光トポグラフィ装置ETG-7100(日立メディコ製)を使用し、3列×10行のプローブ(47チャンネル)を国際10-20法に定められたCzを中心に装着した。解析には、運動中の酸素化ヘモグロビン値(Oxyhemoglobin: Oxy-Hb)を用いて、体性感覚領域を反映すると考えられる領域を計算式(運動終了30秒前のOxy-Hb濃度の平均値-安静終了30秒前のOxy-Hb濃度の平均値)/(安静時終了30秒前の標準偏差)によって効果量(Effect Size)を求め、測定領域で平均値を算出した。尚、血中乳酸濃度の測定は、被験者自身が採血し、検者が測定を行った。血中乳酸濃度と血糖値とMdPFは、各負荷強度の安静時と運動時の比較に対応のあるt検定、負荷強度間の比較にTukeyの方法による多重比較検定を用いて検討した。脳血流は、負荷強度間の比較にGames-Howellの方法による多重比較検定を用いて検討した。全て有意水準は、危険率5%未満とした。
【結果】10%MVCは、血糖値が83.1±9.30mg/dlから80.4±9.29mg/dl、MdPFが86.6±21.85Hzから77.6±23.96Hzに有意に減少した(p<0.05)。30%MVCは、血中乳酸濃度が1.3±0.29mmol/Lから1.5±0.30mmol/Lに有意に上昇し、MdPFが93.5±28.47Hzから59.4±19.29Hzに有意に減少した(p<0.05)。50%MVCは、1.2±0.19mmol/Lから1.8±0.24 mmol/Lに有意に上昇し、MdPFが83.0±24.64Hzから52.2±21.26Hzに有意に減少した(p<0.05)。また、負荷強度間の比較において、MdPFは10%MVCと50%MVC、脳血流応答は各負荷強度間に有意差が認められた(p<0.05)。
【考察とまとめ】本研究において、全ての負荷強度において筋疲労が生じ、負荷強度間では最も50%MVCで筋疲労が生じた。持続的な等尺性収縮による疲労には、カルシウムイオンの動きが関与している。このイオンの動きは、筋収縮と連動しており、ATPの再合成を筋グリコーゲンの分解により成立させ、有酸素系システムによる血中ブドウ糖から絶えず再合成している。つまり、10%MVCは、筋疲労が生じたが、血糖値が有意に減少したことから、筋の圧迫が少なく血流が保たれているため、血中グルコースから再合成したと考えられる。一方、30%MVCと50%MVCは、筋の圧迫が大きいため、筋グリコーゲンから再合成したと考えられる。また、30%MVCと50%MVCは血中乳酸濃度が上昇していることから、解糖系が活性化し、痛みの求心性入力も増加したと考えられる。その結果、脳血流は、負荷強度の増大に伴う筋からの求心性入力の増加により、50%MVCで有意に増加したと考えられる。つまり、末梢のグリコーゲン減少や代謝の変化が脳へ入力され、50%MVCで最も筋疲労が生じたと考えられる。このことは、理学療法において、疲労を客観的に評価する方法を確立するための一助になると考えられる。

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