東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-060
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恥骨結合部損傷が仙腸関節機能不全を引き起こし腰痛症となった一症例
*磯田 真理森川 美紀大津 顕司椙本 剛史西田 美紗子上杉 光臣宮本 啓治有川 功
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抄録

【目的】我々は腰殿鼠径部痛に仙腸関節とそれに関わる筋機能不全が関与していることを報告してきた。第21回・22回東海北陸理学療法学術大会では腰殿鼠径部痛症例に自動背臥位両下肢伸展挙上後下降動作時痛(以下両側下降時痛)、自動背臥位一側下肢伸展挙上後下降動作時痛(以下一側下降時痛)が見られることを報告した。両側下降時痛および一側下降時痛についても仙腸関節とそれに関わる筋機能不全が関与していた。腰痛症に仙腸関節が関与しているという報告はあるが恥骨結合部の関与を示した報告は渉猟できなかった。我々は日常診療で恥骨結合部損傷を主病変とする腰殿鼠径部痛症例を経験している。今回、腰殿鼠径部痛症例に恥骨結合部損傷を呈した症例を報告する。その中の一症例を供覧する。本症例は恥骨結合部損傷が主病変で仙腸関節機能不全を引き起こし腰痛を呈した症例である。
【方法】平成23年6月13日から同年6月20日の間に当院を受診した腰殿鼠径部痛を主訴とした10~59歳の女性の初診患者4名(脊椎椎体、椎間板の損壊性疾患の疑いがない症例)を対象とした。 対象には本研究の目的を説明し同意を得た。1)立位体幹動作(前後屈、左右回旋)の有痛性制動に対して姿勢反射の視点によるテーピングを行った。2)端座位の評価は一側下肢伸展動作(以下座位SLR)、端座位一側股関節屈曲外転外旋動作(以下座位パトリック)を行った。3)背臥位の評価は一側下肢伸展挙上動作(以下一側SLR)、両下肢伸展挙上動作(以下両側SLR)、一側SLR後下降動作(以下一側下降動作)、両側SLR後下降動作(以下両側下降動作)、一側股関節屈曲外転外旋動作(以下パトリック)を行った。4)恥骨結合部の圧痛確認:左右の恥骨を腹側から背側・頭側から尾側・尾側から頭側へ検者の手掌で圧迫し疼痛発現の有無を確認した。5)有痛性制動を最も強く認めた所見に対して動作に関与した筋に伸縮性テープを貼付し評価を行った。6)5)の後残存した所見に対して腸骨操作を行い仙腸関節障害の治療を行った。
【結果】腰殿鼠径部痛を呈した4名の内、恥骨結合部に圧痛を認めた症例は3名であった。1)立位動作:前屈1名、後屈2名、回旋1名。2)端座位:0名。3)背臥位:一側SLR1名、両側SLR1名、一側下降動作:0名、両側下降動作:1名。4)恥骨結合部(単位:箇所):腹側から背側6、頭側から尾側5、尾側から頭側4であった。
(症例供覧)10歳代女児。初診時立位前屈80°、後屈30°で疼痛発現した。立位前屈動作に対して両屈曲パターン(外腹斜筋、腹直筋)でテーピングした。疼痛は残存した。端座位所見は認めなかった。背臥位両側下降時30°で疼痛発現した。右薄筋のテーピングで疼痛消失した。立位動作の疼痛も消失した。恥骨結合部の圧痛は左右腹側から背側、頭側から尾側、尾側から頭側すべてで認めた。初診翌日立位後屈30°で疼痛発現した。背臥位両側下降時60°で疼痛発現した。右薄筋のテーピングで疼痛消失した。立位後屈動作時痛は軽減したが消失しなかった。腸骨右前傾、左後傾操作テーピングで疼痛消失した。恥骨結合部の圧痛は右腹側から背側のみ認めた。初診日より4日後、立位、背臥位の所見は消失していた。恥骨結合部の圧痛は右腹側から背側のみ認めた。
【考察】左右の腸骨は恥骨結合部によって結合している。恥骨結合部の動きは仙腸関節に連動している。恥骨結合部が損傷されるという事は仙腸関節が不安定な状態にあり、腸骨の動きによって仙腸関節周辺の軟部組織に侵害刺激が入力されやすい状態といえる。関節へ直接侵害刺激が入力されなくとも恥骨結合部損傷が存在することで仙腸関節機能不全を引き起こす。薄筋は恥骨結合部から脛骨鷲足へ走行している。薄筋は股関節内転・膝関節屈曲・下腿内旋に作用している。膝関節伸展位保持の動作で薄筋は股関節と仙腸関節に作用する。薄筋の起始部は恥骨円板部から恥骨下枝にかけてである。薄筋は恥骨結合部の高さより脛骨鷲足が背側へ行くと股関節伸展とともに腸骨前傾に作用する。本症例は右恥骨結合部に圧痛を認めた。疼痛発現動作の中で関節周辺の軟部組織由来のようなAδ線維由来の疼痛は発現しなかった。恥骨結合部損傷が局所病変で薄筋の機能不全を引き起こしたことで右腸骨前傾障害に陥った。その結果、腰痛を発症したと言える。
【まとめ】良性筋骨格系疾患の腰痛症の中には仙腸関節、腰椎椎間関節由来のものだけではなく、恥骨結合部由来のものが存在する。恥骨結合部損傷が仙腸関節機能不全を引き起こす症例が存在する。仙腸関節や腰椎椎間関節の評価と治療のみならず恥骨結合部に注目する必要がある。

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