東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-062
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血管障害による脊髄損傷を呈した症例に対する長期的な理学療法の必要性について
*平木 清喜片田 圭一堀田 成紀(MD)
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抄録

【はじめに】小児の脊椎・脊髄損傷は極めて希な疾患に分類され,その臨床像は年齢によって異なる.また,全脊椎・脊髄損傷の約2~3%で,10歳以下になると0.1~0.3%程度となり症例に関する報告は数が少ないのが現状である.さらに,小児脊髄損傷の特徴は骨傷を認めないことが多く,上位胸髄で完全麻痺が多いといわれている.今回,血管障害による脊髄損傷と診断され完全対麻痺をきたした小児症例を担当する機会を得たので,その関わりについて報告する.なお,報告に際し症例および家族には趣旨を説明し同意を得ている.
【症例紹介】症例は6歳の女児で,平成21年3月,保育園の鉄棒で遊んでいたところ誤って落下した.落下直後は少し歩行できたが,その後,歩行困難となったため当院救急外来受診.翌日になっても症状軽快しないため外傷性の脊髄損傷疑いで入院となる.MRI上,骨傷や脊髄レベルでの損傷はなく,Th4以下胸随の腫大残存が認められ,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン療法を実施したが症状に改善はみられず,4ヶ月後のMRIではTh9以下の脊髄に著明な萎縮を認め画像上は慢性期の状態と診断された.
【理学療法と経過】入院3日目より理学療法が開始となった.開始当初は児との関係作りに難渋し,評価も十分にできない状況であった.初期評価では,Th4以下の完全麻痺とTh8~9の感覚鈍麻,Th10以下の感覚脱失,体幹・下肢の筋緊張低下,関節可動域制限なし,上肢筋力5レベル,基本動作は寝返り以外全介助、移乗動作は全介助(抱っこにて移乗),車いす駆動は不可といった状態であった.理学療法は体幹・下肢の機能回復,関節可動域維持,残存筋の筋力維持・増強,基本動作の獲得などを目的に遊びの要素を含めながら実施した.実際,児の年齢では運動や動作の目的および必要性を説明しても泣き出して拒否したり,集中して実施することができなかったため対応としては最低限の関節可動域練習を実施し,後は広いマット上で自由に過ごしてもらったり,一緒に遊んだりしながら姿勢や動作などを常に観察した.ポイントとなる時に数回,その動きを実施させたり,ハンドリングなどを実施したりしながら,児にとって理学療法を実施していると思わせないように短時間での関わりとした.
受傷後2ヶ月,身体機能面において著変みられず車いすの必要性が高いと思われたため,移乗動作の獲得や車いす作製に向けて子供用の車いすを石川県リハビリテーションセンターより借用した.好きなところへ移動して遊べることから車いすには興味を示し,駆動やプッシュアップ能力は日々向上がみられ,活動性が高まると立位練習や歩行練習に取り組む機会も増えてきた.受傷後4ヶ月,基本動作や車いすへの移乗動作は自立となり,自宅の環境調整を実施し自宅退院となった.その後,外来での理学療法を継続中である.現在,児は小学校に通学しており身体機能面においては,股関節の伸展制限がみられるがそれ以外に著変はなく,基本動作は自立しており,ADLも年齢を考慮すれば概ね自立している状態である.その他の関わりとしては,保育園への通園時や小学校への入学時に石川県リハビリテーションセンターと連携して情報提供や環境調整を実施した.
【考察】本症例は脊髄レベルでの損傷がなく,血管障害によって引き起こされた対麻痺症状であり,理学療法開始当初は側副血行路の発達を期待しながら身体機能回復を目的に実施した.しかし,小児脊髄損傷の機能障害からの回復能力については完全損傷では予後不良なことが多いという報告からも,体幹や下肢の麻痺は残存するものと考えられる.よって,今後は児がリスクなどへの認識や自己管理ができる年齢になるまでは側彎や褥瘡,尿路感染などを予防するために,児を取り巻く家族や人々が協力して長期的な介入を継続していく必要がある.また,小児の脊髄損傷も成人の脊髄損傷と同様に,残存筋の強化や基本動作練習は重要であると報告されているが,成人で実施しているような方法では遂行困難なことが多い.本症例も既存の方法で理学療法を遂行しようとしても拒否されたり,継続できなかったりしたため自由に行動する中で,注意深く観察し児にとって理学療法を実施していると思わせないように短時間での関わりとしたことが受け入れに有効であったと考える.最後に,母親は理学療法継続を重要視しているが成長と共に社会参加に目を向けていけるように,母親の心理面に対するサポートが課題になる可能性が考えられる.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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