抄録
【目的】脳卒中片麻痺者(以下片麻痺者)の座位保持能力は、体幹機能や歩行の予後と関連があると報告されており、座位保持能力の重要性は広く認識されている。安定した座位を獲得し、さらに上位の運動能力獲得を図るために片麻痺者の静的座位能力の質的な評価が必要であると考える。これまで片麻痺者の座位に関しては、側方傾斜時の体幹筋活動や座位保持の床反力中心点の軌跡を健常者と比較した研究は報告されているものの、静的座位に関与する筋活動に関してはいまだ不明な点が多い。また臨床の場面では、座位保持を獲得している片麻痺者でも、その座位姿勢は非対称的であることをしばしば経験する。そこで本研究の目的は、表面筋電計を用い、脱力座位姿勢と直立座位姿勢の2条件で片麻痺者の静的座位を計測し、麻痺側と非麻痺側の体幹筋活動の違いを対照群と比較し明らかにすることである。〈BR〉
【方法】対象は当院入院加療中の脳卒中片麻痺者6名(男性5名、女性1名、平均年齢78.3歳、右片麻痺3名、左片麻痺3名、下肢ブルンストロームステージで5が5名、4が1名)、端座位が30秒以上可能な者とし、体幹機能評価としてStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)の体幹項目及びTrunk Control Test(以下TCT)を評価した。対照群は健常者6名(男性6名、平均年齢24.2歳)とした。対象者には口頭による説明を行い、同意を得て計測を実施した。計測には表面筋電計テレマイオG2(ノラクソン社製)を用い、電極中心間距離は3cm、バンドパスフィルターは10~500Hz、サンプリング周波数は1500Hzとした。対象筋および電極貼り付け位置は酒井医療株式会社の表面筋電図マニュアルに従って、両側の腹直筋(臍部の約2~3cm外側)、外腹斜筋(第8肋骨外側下縁)、内腹斜筋(上前腸骨棘を結んだ線約2cm下方)、腰部脊柱起立筋(L3棘突起2~3cm外側)とした。測定は「楽に座ってください」という指示の脱力座位姿勢と「背すじをのばして座ってください」という指示の直立座位姿勢の2条件を2回実施した。測定時間5秒間のうち中間3秒間の平均積分値を算出し2回の平均を求め、Symmetry Index(以下SI脳卒中者SI=(麻痺側-非麻痺側)/(麻痺側+非麻痺側)*100、健常者SI=(左側-右側)/(左側+右側)*100)により左右の対称性を評価し片麻痺者と対照群の比較を行った。統計処理にはSPSSを使用し、Mann-Whitney検定を用い、有意水準は5%未満とした。〈BR〉
【結果】体幹機能評価はSIAS体幹項目では3点が3例、4点が1例、5点が1例、6点が1例、TCTでは25点が2例、36点が1例、61点が1例、100点が2例であった。筋活動のSIでは、直立座位における片麻痺者群の内腹斜筋が有意に低値であり、全例で非麻痺側に対し麻痺側で筋活動の低下を認めた。直立座位における外腹斜筋、腹直筋、腰部脊柱起立筋、及び脱力座位では両群間にSIの差はなかった。またTCTの数値が高い片麻痺者ほど直立座位における外腹斜筋のSIが小さくなる傾向を示した。〈BR〉
【考察】内腹斜筋は腰椎の生理的前彎を保持する働きを担っており、脱力座位に比べ骨盤前傾、腰椎前彎となる直立座位でその筋活動がより要求される。今回の研究では直立座位の内腹斜筋において麻痺側の筋活動低下を示したことは、体幹機能評価で満点だった者も含めて、低緊張などの機能低下から本来骨盤や腰椎を固定するために必要な筋活動が十分に発揮できていないことが考えられた。〈BR〉
【まとめ】本研究では、表面筋電計を用い、脱力座位姿勢と直立座位姿勢の2条件で片麻痺者の静的座位を計測し、麻痺側と非麻痺側の体幹筋活動の違いを対照群と比較した。結果は直立座位において片麻痺者の麻痺側内腹斜筋で筋活動の低下を示した。今後は急性期における片麻痺者の座位保持戦略や脊柱骨盤のアライメントも含めての検討が必要である。