東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-02
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高齢者の転倒歴は歩行比と関連するか
*高木 佑也久保田 雅史松浦 佑樹吉岡 直美西前 亮基谷口 亜里沙高本 伸一中瀬 裕介
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キーワード: 転倒, 歩行比, 高齢者
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抄録

【目的】 高齢者では,若年者と比較しバランス能力が低下し,転倒との関連が指摘されている.高齢者は,転倒により骨折などの損傷を受けやすく寝たきりの原因となることが多いため,高齢者の転倒を予防することは重要な課題である.これまでに,我が国における在宅生活高齢者の転倒関連因子として年齢,性別,過去の転倒経験,既往歴,筋力,歩行速度,バランス能力などが報告されている. 一方,歩行比とは歩幅を歩行率で除した値である.日常生活における成人の歩行は,速度の変化に関わらず歩行比は一定であることが報告されている.また,歩行比は高齢者やパーキンソン病患者で減少することが知られており,体幹下肢運動年齢とも相関すると報告されている.以上のように,歩行比は歩行能力の重要な指標の一つであるが転倒歴との関連性ついての報告は我々が探した限り無い.また高齢者は後方へ転倒することが多く,前方移動能力のみでなく後方移動能力を評価することが重要であるとされている.本研究では高齢者の転倒歴が前進及び後進歩行の歩行速度や歩行比と関連を有するかを明らかにすることを目的とした. 【方法】 対象は60歳以上の地域在住高齢者で,当院に外来リハビリテーション目的に来院した40名(男性24名,女性16名,平均年齢75.3±7.8歳)である.なお,過去1年以内に脳血管障害,心疾患の既往がある者,歩行障害により下記の検査遂行が困難な者は除外した.また,全対象者に本研究の目的,方法を口頭で説明し同意を得た. 転倒は「故意によらず身体バランスを崩し,膝より上の身体の一部が地面や床に触れた場合」と定義し,過去3ヵ月間における転倒経験の回数を聞き取りにて調査した.歩行路は10mの直線歩行路とし,歩行速度を定常状態にするため前後に各3mずつの助走路を設定した. 測定は前進歩行及び後進歩行を至適歩行速度と最大歩行速度でそれぞれ2回ずつ,計4回の歩行を実施し,歩行時間と歩数を測定した.最大歩行の際には「できるだけ早く歩いてください」との教示で統一した.なお,歩行は裸足での歩行とし全例で歩行補助具を使用せず行った.歩行時間の測定にはデジタルストップウォッチを用いた. 歩行パラメーターとして,測定した所要時間,歩数,歩行距離(10m)より,歩行率{歩行率(steps/min)=歩数(steps)/所要時間(min)},歩行速度{歩行速度(m/min)=歩行距離(m)/所要時間(min)},歩行比{歩行比(m/steps/min)=歩幅(m)/歩行率(steps/min)}を算出した.統計学的解析は転倒経験群と転倒非経験群との比較には対応のないt-testを用い,転倒経験回数と各評価項目との関連はSpearmanの順位相関係数を用いた.有意水準は5%とした.  【結果】 転倒経験の調査より,転倒経験群は13名(77.7±8.8歳),転倒非経験群は27名(74.2±7.3歳)であった.歩行速度と歩行比は、前進及び後進、至適歩行速度及び最大歩行速度のすべてにおいて転倒経験群と転倒非経験群の間で有意差を認めた.歩行率においては転倒経験群と転倒非経験群に有意差は認めなかった.転倒経験回数の相関に関しても,歩行率以外の全てにおいて群間に有意差を認めた. 【考察】 本研究の結果より,歩行速度のみでなく,歩行比も前進歩行及び後進歩行ともに転倒経験の有無に関連することが明らかとなった.歩行速度は被験者の努力によって容易に変化しうる一方,歩行比は特別な指示を与えなければほぼ一定である可能性が高いことから,歩行比は,転倒のリスクを簡便に評価するのに適した歩行能力評価の一つであるかもしれない.今後,対象者を増やし,各種疾患との関連などを明らかにしていく必要がある. 【まとめ】 本研究では,地域在住高齢者の転倒歴と各歩行パラメータとの関連を検討した.前進及び後進歩行の歩行速度のみでなく,歩行比との関連も認められた.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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