抄録
【目的】近年,高齢心不全患者は増加傾向にあり,再入院を繰返すことが問題となっている.再入院の要因として,医学的要因よりも塩分や水分制限および内服の不徹底,過負荷での運動など自己管理不足によるものが多いとの報告が散見される.高齢者は身体機能や認知機能の低下により,心臓リハビリテーション(以下,心リハ)の指導や教育内容を退院後も継続していくことが難しいものと予測される.患者の自己管理を補うためには,介護保険等の社会資源の積極的活用や在宅訪問スタッフによる患者教育・指導などの支援体制が重要視されている.
当院心リハでは,退院後に介護保険サービスを利用している高齢心不全患者の中にも再入院する患者が多くみられる.そこで,心不全再入院患者の介護保険サービス利用の有無に視点を当てて現状を調査し,今後の課題について検討したので報告する.
【方法】平成21年1月から平成22年5月までに心リハ依頼のあった65歳以上の高齢心不全患者のうち,自宅退院後1年以内に心不全増悪で再入院した55例(男性:30例,女性25例,平均年齢82.6±5.8歳)を対象とした.介護度の内訳は,要支援12例,要介護1が10例,要介護2が12例,要介護3が4例,要介護4が3例,要介護5が0例であった.サービス利用内容としては,訪問介護やデイサービスの利用が大部分を占めていた.
対象を,介護保険サービス利用群(以下,利用群)36例と介護保険サービス非利用群(以下,非利用群)19例の2群に分け,年齢,左室駆出率(EF),退院時BNP,退院時歩行レベル,再入院までの期間(退院後3ヶ月以内,退院後6ヶ月以内),同居者の有無を診療録より後方視的に調査した.退院時歩行レベルは,病棟トイレ歩行が自立していた症例を歩行自立として調査した.統計処理は,年齢,EF,退院時BNPにはMann-WhitneyのU検定を用いた.また,各群で歩行自立症例,3ヶ月以内に再入院した症例,6ヶ月以内に再入院した症例,独居者の比率についてχ2検定を用いて比較した.いずれも,危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】年齢は利用群が84.0±5.3歳,非利用群が79.8±5.9歳であり,EFは利用群で54.7±14.3%,非利用群で50.2±21.4%であった.退院時BNP値は利用群で415.0±442.3pg/ml,非利用群は296.6±210.3pg/mlで両群ともに高値であった.年齢は,利用群で有意に高齢であったが,EF,退院時BNPでは有意差を認めなかった.また,歩行自立症例は利用群47.2%,非利用群89.4%であり,非利用群で有意に高率であった.退院後3ヶ月以内に再入院した症例は利用群69.4%,非利用群42.1%,退院後6ヶ月以内に再入院した症例は利用群86.1%,非利用群57.8%であり,いずれも利用群で有意に高率であった.独居者につては利用群8.3%,非利用群15.8%あり,有意差を認めなかった.
【考察】退院後1年以内に心不全増悪で再入院した症例は55例(41.0%)で,そのうち介護保険サービスを利用している症例は,36例(65.4%)と高率であった.介護保険サービス利用群は高齢であり,歩行自立度が低ことからADLそのものが低下していることが考えられた.また,退院時のBNPが高値の傾向にあり,退院後早期に再入院する症例が多いことから,心不全の管理がより困難な症例が多いものと考えられた.家族構成については,独居者に有意差はなかったが,嶋田らの報告では,独居者の再入院率が高かったと報告していることより,今後症例数を増やして再検討する必要があるものと思われた.
高齢心不全患者の自己管理を支援するにあたり,介護保険サービスを利用している心不全患者は,より厳重な疾病管理が求められる状態にあると思われる.よって,退院後に心不全増悪を予防するには,患者と密に関わる機会がある地域介護スタッフの果たす役割は大きなものと考えられるが,心リハでの教育や指導内容について病院側から地域介護スタッフへの詳細な情報提供が必要不可欠と思われる.当院においては,退院時に経過報告書などにより情報提供を行っているが,心不全管理に対して統一的な形式にはなっていない.松崎らの報告では,「心不全地域連携シート」を作成し,患者の病態や注意してほしいポイントを具体的に提供することで,再入院が減少したと報告している.今後当院においても明確な情報ツールを作成し,退院後も心リハの指導内容を継続してもらえるような地域連携に対する取り組みを検討することが課題として考えられた.
【まとめ】高齢心不全患者の介護保険サービス利用患者は,より厳重な心不全管理が必要と思われた.そのためには,病院側からの明確な情報提供が必要不可欠と考えられ,当院においても,より密な地域連携に取り組むことが必要と思われた.