東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-22
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迷走神経活動を賦活させる手段としての短時間頭低位の有用性に関する検討
*和久田 未来西田 裕介
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抄録

【目的】
 有酸素運動や呼吸統制による迷走神経活動の賦活化は、内部障害系疾患患者の血圧や血糖値、HbA1cなどを改善できることが報告されている。また、内部障害系疾患患者は、圧受容器反射感受性(Baroreflex sensitivity:BRS)の低下により、安静時の迷走神経活動が退縮しているとの報告もある。BRSは迷走神経活動と同等のものとして扱われ、圧受容器反射の特徴からBRSを高めることで、迷走神経活動を賦活できる。これらの報告から、迷走神経活動を直接的に調節している圧受容器反射の感受性を高める介入には意義があるといえる。本研究では、BRSを高める手段として頭低位に注目した。頭低位は、重力による静脈還流量の増加が圧受容器反射を惹起し、BRSを高めることができると考えられる。そこで本研究では、迷走神経活動を賦活させる手段としての頭低位の有用性を確立するために、「頭低位の介入により、また、頭低位角度が大きいほどBRSを高めることができる」という仮説を立案し検証した。
【方法】
 対象は、内部障害系疾患の既往と喫煙習慣のない健常男性10名(年齢23±3歳、身長171±8cm、体重61±7kg)とした。プロトコルは安静5分、頭低位5分、回復5分の合計15分間で、頭低位は6°と10°の2種類を実施し、測定順序はランダムとした。一連のプロトコルを通して、CM5誘導法を用いて心電図のRR間隔を測定し、心拍変動解析から迷走神経活動の指標であるrMSSDと予測BRSを算出した。予測BRSの算出にはMork et al.(2009)によって作成された回帰式(LogLF=1.67+0.78×LogBRS)を使用した。統計学的分析は、安静と頭低位との比較に対応のあるt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。また、頭低位による自律神経の変化を明確とするため、呼吸数を1分間に15回(呼気:吸気=2sec:2sec)の統制を行い、24時間前からアルコールとカフェインの摂取、高強度の身体活動を避け、当日は測定2時間前からの食事摂取も控えて頂いた。なお、本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を得ており、実験の対象者には研究目的を紙面及び口頭で説明し、同意を得てから実施した。
【結果】
 頭低位6°の介入では、rMSSD(安静:55.8±20.0、頭低位6°:57.9±24.2)と予測BRS(安静:38.2±37.3、頭低位6°:49.8±54.1)の両指標において、安静と比較して有意な増加は認められなかった。一方、頭低位10°の介入では、rMSSD(安静:53.4±16.2、頭低位10°:61.4±21.5)と予測BRS(安静:23.8±16.0、頭低位10°:51.6±49.6)おいて、安静と比較して有意な増加を示した(p<0.05)。
【考察】
 迷走神経活動の指標であるrMSSDと予測BRSは、安静時と比較して頭低位6°では有意差は認められなかったが、頭低位10°では有意に高値を示した。両指標は、値が大きいほど迷走神経活動が賦活していることを示しており、頭低位10°において、迷走神経活動が賦活したことが分かる。つまり、仮説であった「頭低位の介入により、また、頭低位角度が大きいほどBRSを高めることができる」は証明されたことになる。Fu et al. (2000)により、頭低位6°で一回拍出量が有意に増加すると報告されていることから、頭低位6°においても重力の影響により静脈還流量が増加することが推測される。しかし、本研究の結果より、頭低位6°では迷走神経活動を賦活させることができなかった。この理由として、頭低位6°における静脈還流量の増加が、圧受容器反射の閾値を越えるだけの変化でなかったと考えられる。つまり、頭低位6°と10°との間に圧受容器反射を惹起させる閾値が存在して可能性があり、静脈還流量を増加させることができるとされる腹式呼吸等を併用することで頭低位6°においても圧受容器反射を誘発させることができる可能性も示唆している。
【まとめ】
 健常男性における短時間頭低位の介入では、頭低位10°においてBRSを高め、迷走神経活動を賦活できることが分かった。頭低位は運動耐容能の低く、有酸素運動等の介入が困難な患者に対しても、背臥位にて処方が可能であり、迷走神経活動を賦活できる手段と成り得るといえる。最終的には、健常高齢者や疾患患者が対象であり、健常男性を対象とした本研究は、頭低位の有用性を確立するための基礎的な研究として意義のあるものであると考えている。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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