東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-30
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関節リウマチ症例に対する段階的治療介入の経験
*中村 壮大山下 淳一石野 麻衣子磯 毅彦黒澤 和生
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抄録

【はじめに】
関節リウマチ(以下,RA)は,病態の進行とともに身体機能障害も重篤となり,日常生活動作(以下,ADL)に支障を来たすが,個々の障害像は様々である.RA患者に対する治療を行う中で,関節可動域制限や疼痛などの問題から,運動方法を工夫する必要性を日々感じている.今回,発症から長期経過したRA患者に対し,他動的な徒手的介入から関節相互の協調運動改善と自己管理として姿勢指導や自動運動へ移行する段階的治療介入を実施した.本報告では段階的治療介入を実施し,上肢機能を主としたADL能力の改善を認めた症例について報告する.
【症例紹介】 70代女性(身長155cm体重52kg)主婦,右利き.昭和56年発症,投薬はプレドニゾロン1mg/日である.
症例の希望は,洗濯物干し動作の改善であった.
学会発表に関して,本人に説明し書面による同意を得た.
【初期評価】 Barthel Index(以下,BI)100点,Face Scale(以下,FS)10/20,DAS28CRP2.51(臨床的寛解状態).関節可動域(右/左)は,肩関節屈曲105°/105°,外転100°/85°,外旋30°/10°,内旋55°/65°,肘関節伸展‐30°/‐35°.疼痛は,肩関節屈曲・外転時に肩峰下に数値的評価スケール(以下,NRS)4/10,両肘関節伸展時に3/10の訴えがあった.握力(右/左)は,水銀計を使用し88.0/92.0mmHgであった.
【治療および経過】 治療は週6回60分間を8週間施行した.今回,上肢機能低下の原因として,肩関節挙上動作時に上腕骨頭が関節窩に引き寄せられる事で生じる関節可動域制限,軟部組織の柔軟性低下,疼痛が考えられた.このことから回旋筋腱板,上腕二頭筋,小胸筋,広背筋の異常な筋緊張や柔軟性低下,筋力低下が上肢機能低下の因子になることが示唆された.
そこで,治療期間の前半は過緊張を呈した筋群の緊張軽減と疼痛緩和,関節可動域の改善に主眼をおいた.上肢の主な関節可動域制限の因子である回旋筋腱板,上腕二頭筋,小胸筋,広背筋の緊張軽減を目的に,横断マッサージを施行し,引き続き,軟部組織モビライゼーション後,ホールドリラックスおよびストレッチを実施した.
自己管理としてのホームエクササイズは,ヘッドフォワード姿勢の改善や身体の正中位獲得を目的とした姿勢指導や肩甲骨面上での回旋筋腱板エクササイズ(肩甲骨面外転30°まで)などを併せて指導した.また,回旋筋腱板エクササイズでは内旋も外旋も必要のない肩甲骨面上外転運動Scaptionとし肩関節内・外旋中間位で行うよう指導した.
治療介入4週目より疼痛の緩和,両肩・肘関節を主とする関節可動域の改善や関節安定性向上が認められ,積極的に自動運動を実施した.また,自動運動可能な最終可動域付近でのホールドリラックスを調節しながら実施し,上肢の機能向上に重点を置く練習に移行した.治療期間の後半では,回旋筋腱板の活動を促す事で上腕骨頭のコントロール改善や関節安定性向上を目的に,上腕骨を固定し三角筋の活動を抑制させた状態で回旋筋腱板に対する肩関節内・外旋運動を実施した.
【最終評価】 BI100点,FS5/20,DAS28CRP2.04まで改善が認められた.関節可動域(右/左)は,肩関節屈曲130°/120°,外転100°/95°,外旋35°/15°,内旋75°/70°,肘関節伸展は最終可動域でのStiffnessを訴えたものの疼痛はNRSで1/10と緩和し,伸展‐10°/‐10°まで関節可動域は改善した.また肩関節屈曲・外転時に肩峰下で生じていた疼痛も1/10まで緩和した.握力(右/左)は104.0/100.0mmHgと向上した.治療介入後半には,洗濯物干し動作などADL能力の改善が認められた.
【考察】 本症例はRA発症から30年程度罹患期間があり,全身的な関節可動域制限や疼痛,筋力低下が認められた.関節可動域制限や疼痛に対し,軟部組織モビライゼーションなど他動的な徒手的介入内容を中心に実施した事で,関節可動域の改善や疼痛の緩和が認められた.また自己管理としてのホームエクササイズでは,姿勢指導など正常な運動において必要な身体環境を調整した上で,積極的な回旋筋腱板エクササイズを施行することを指導した.エクササイズにより上腕骨頭のコントロールが改善し関節安定性が向上した結果,関節相互の協調運動が改善し,洗濯動作など上肢機能が向上したと考えられる.
このように他動的な徒手的治療介入から関節相互の協調運動改善,自己管理として姿勢指導や自動運動を主体とした治療内容へ重点を移行する段階的治療介入を実施した結果,上肢機能が向上し洗濯物干し動作などADL能力の改善が認められた.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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