抄録
【目的】回復期リハビリテーション病棟(以下リハ病棟)は、寝たきり防止と在宅復帰を目標に、転倒に注意し、病棟での活動量を増加させることが必要である。そのためには、移動動作の自立度判定が適切になされることが重要である。現在、当院リハ病棟では、理学療法士(以下PT)が患者の移動能力を評価し、医師や作業療法士、看護師(以下Ns)と日常生活動作(以下ADL)や精神・認知機能等を含めて検討し、病棟内自由度を設定している。しかし、実際の病棟での管理はNs主体であり、転倒予防を意識するあまり、PTが評価する移動能力と差があるように思われる。今回の調査は、リハビリテーション室(以下リハ室)での移動能力と病棟内自由度の相違を確認し、適切な自由度を設定するための方法を検討することを目的とする。
【方法】対象は当院リハ病棟入院患者で、2010年7月1日から2011年3月31日までに退院された168名(男性78名、女性90名、平均年齢73.7±13.1歳)、疾患内訳は脳血管疾患等59名、大腿骨近位部骨折45名、その他運動器疾患(以下運動器疾患)49名、廃用症候群15名とした。対象者の退院時における日中および夜間の病棟内自由度、リハ室での移動能力と認知症老人の日常生活自立度判定基準(以下DP)、転倒・転落スコアについて、診療記録より後方視的に調査した。なお、移動自由度は、自立、見守り(一部介助を含む)、介助の3段階とし、移動方法については独歩(歩行補助具なし)、杖使用、歩行器使用、車椅子使用の4分類とした。
【結果】対象者全体では、リハ室での自立64.8%に対し、日中の病棟内自立が73.8%で、自立割合が高い結果となった。しかし、リハ室での移動方法が、独歩63.3%、杖使用32.1%、歩行器使用3.7%に対し、日中の病棟内は、独歩25.6%、杖使用41.9%、歩行器使用21.0%で、日中の病棟内において独歩の割合が低く、杖、歩行器使用割合が高かった。また、日中の病棟内見守りが13.7%であるのに対し、夜間は32.8%と高い割合を占め、夜間の自由度が低下していた。病棟内において介助を必要とするのは、日中22.0%、夜間23.7%と差はなく、夜間介助を必要とするものの多くは、日中も介助を必要としていた。疾患別では、脳血管疾患等のリハ室での自立52.5%に対し、日中の病棟内自立が64.4%で、自立割合は高いが、リハ室では自立の9割以上が独歩または杖歩行であるのに対し、日中の病棟内では車椅子使用が28.9%と高い割合を占めていた。また、日中の病棟内見守りが13.6%に対し、夜間は39.0%と高い割合を示した。大腿骨近位部骨折のリハ室での自立55.8%に対し、日中の病棟内は71.1%で、自立割合は高いが、リハ室では自立の68.0%が独歩であるのに対し、日中の病棟内は杖使用40.6%、歩行器使用43.8%で、独歩は15.6%に留まっていた。また、見守りは日中の病棟内22.2%に対し、夜間は48.9%と高い割合を示した。運動器疾患では、自立度がリハ室91.8%、日中の病棟内91.8%、夜間の病棟内85.7%でいずれも高い割合を示しているが、リハ室では60.0%が独歩であるのに対し、日中の病棟内では杖使用が60.0%、夜間では歩行器使用が33.3%を占めていた。
【考察】今回の調査で、日中の病棟内自由度はリハ室より高いが、移動方法で比較すると、杖、歩行器使用の割合が高い結果となった。これは、病棟内ADLが転倒リスクを低くし、自由度を高めるために移動能力レベルを下げているためと考えられた。疾患別の比較では、脳血管障害等と大腿骨近位部骨折は、移動能力レベルを下げ、日中の病棟内自由度を高めているが、運動器疾患では、移動方法に変化はあるものの、リハ室と日中および夜間の病棟内自由度に差はなかった。また、脳血管疾患等と大腿骨近位部骨折では夜間の病棟内において、見守り、介助を必要とする割合が高くなっていた。疾患別の転倒・転落スコアの平均は、脳血管疾患等17.5±4.9、大腿骨近位部骨折17.6±5.0、運動器疾患13.1±5.0であり、運動器疾患が低い値を示した。DPの評価による認知症を有する率は、脳血管疾患等71.2%、大腿骨近位部骨折60.0%、運動器疾患20.4%で、運動器疾患が低い割合を示した。このような違いが、自由度の高さに繋がっていると考えられた。リハ病棟では、毎週チームカンファレンスを行っており、その場において患者個々の状況を把握し、検討できる資料を提示することで、より適切な自由度の設定を実施していく。また、適切な自由度維持のためには、PTがより積極的に病棟活動に関われる体制を構築しなければならない。
【まとめ】今回、リハ室での移動能力と病棟での自由度の相違を調査し、適切な自由度設定の方法について検討した。リハ病棟における自由度の設定は、転倒リスクを回避する上で一定の妥当性を感じられた。適切な自由度を設定するためには、スタッフ間の共通認識が重要である。