抄録
【目的】寛骨臼回転骨切り術(以下、RAO)は、股関節周囲の筋肉を広範囲に剥離して骨切りを行う術式である。そのため、筋力の回復や骨切部の骨癒合にかなりの時間を要する。これに対し、当院ではクリティカルパス(以下、パス)を作成し運用することで、入院中安全で的確にリハビリテーションが進み、入院期間が長期化しないように取り組んでいる。今回このRAOのパスについて、バリアンス例を調べ、このパスの有用性と問題点について検討した。<BR>
【方法】対象は、平成17年10月から平成23年4月までに当院でRAOを施行した女性32例33股、平均年齢38.2歳である。術式において、大転子を切離した方法が4例4股、大転子を切離しない方法が28例29股であった。各症例の離床時期(車椅子移動開始時期)、起立歩行開始時期(部分荷重開始時期)、退院時期を調査しパスと比較した。尚、当院のRAOのパスでは術後4日で車椅子移動を開始し、術後2週より起立歩行開始、術後8週でT字杖での退院を目標としている。今回、術後9週を超えて退院した場合をバリアンスとした。<BR>
【結果】離床時期の平均は術後5日、起立歩行開始時期の平均は術後2週4日、T字杖での退院時期は術後8週3日であった。このうち、9週を超えて退院したバリアンス例は33股中6股(18%)であった。内訳は大転子を切離した症例3股、回転骨片に移動を認めた症例2股、表層感染を生じた症例1股である。特に退院までに術後12週以上の期間を要したのは、回転骨片が移動し直達牽引を要した2例であった。この2例とも離床後に発生した疼痛に対し投薬のみで対処し、リハビリテーション(以下、リハビリ)をパスどおり順次進めていたが、後の定時のレントゲン検査で異常が判明し対策が遅れてしまった症例である。また、大転子を切離した症例は3例とも退院時期が術後10週を越えていた。尚、表層感染の1例は術後9週5日で退院となっていた。感染そのものが偶発するものであり、感染の原因については特定できなかった。<BR>
【考察】今回、対象の80%以上の症例がこのパスに準じることができ、このパスはほぼ妥当なものと考え、有用性があることが示唆された。バリアンスとして回転骨片に移動を認めた2例は、直達牽引をすることで術側膝関節の屈曲拘縮や長期臥床による筋力低下を招き、これらの合併症に対するリハビリにも難渋したことが、入院の長期化につながったと考える。また、大転子を切離した3例は主に大転子部の骨癒合や術側股関節の外転筋力の回復に時間を要していた。そのため、当院では平成21年5月以降は、大転子を切離する方法を術式として選択することがなくなった。<BR>これらより、離床後や起立歩行開始後に疼痛の訴えがあった場合や大転子を切離した症例では、骨癒合の完成までは必ずレントゲンで確認した上でリハビリをすすめるべきであったと考える。従来のレントゲン検査はルーティン化されており、疼痛の訴えに応じて検査を即座に行うということが少なかった。また、理学療法士から自発的にレントゲン検査を医師に依頼することもなかった。したがって、今後このパスを運用していく場合、離床や起立歩行開始の翌日に患者の訴えに応じて適宜レントゲンの確認をすることが必須であると考える。また、個々の症例の訴えに傾聴し、異変のサインを見落とすことがないように努めることも、パス運用に対して意義があると考えられる。さらに、理学療法士の評価のみならず、症例の術中の状態を医師から、病棟での症例の訴えや問題点などを看護師から情報収集することで、客観的にも症例の異変を予測、察知できると考える。それが迅速な対応につながり、バリアンスとなるさまざまな原因を回避し、患者への負担も軽減されるのではないかと考える。したがって、他部門からの情報収集もパスを運用する上で重要であると考える。<BR>
【まとめ】以上のことから、当院のパスは有用性があると示唆された。しかし、あくまでも症例の経過をパスに合わせるのではなく、各症例の特徴を把握しながらパスを運用することが重要である。医師や看護師からの情報を収集したチームアプローチもパスの遂行において不可欠である。<BR>