抄録
【目的】
変形性膝関節症に対する人工関節全置換術(以下,TKA)は一般的な観血的治療である.TKAの耐容年数は現在10~20年とされているが,平均寿命の延長によって再置換を行う症例が増加している.今回,当院にてTKA再々置換術施行された症例の理学療法経験と当院施行初回TKA症例の歩行能力と比較・検討したので報告する.
【方法】
<対象症例>80歳代後半,女性.既往歴:H6 左TKA施行(70歳代),H16 左TKA再置換術(80歳代)当院にて施行.現病歴:H22.6 大腿骨コンポーメントに緩みに伴う左大腿骨内顆疲労骨折を受傷し入院.保存療法を選択され,H22.8からギプスおよび装具にて膝関節伸展位で固定を実施し,固定状態のままH22.9退院.H23.1左坐骨神経痛のため歩行困難となり再入院.物理療法と運動療法にて症状軽快したが,装具着用下での歩行において患側下肢立脚期の外側動揺が増悪.本症例からも「歩きにくい」と聞かれるようになった. H23.4.9左TKA再々置換術を施行.なお,伸展固定装具は再々置換術前日まで使用していた.術前評価:膝関節可動域(以下,ROM)0-60°(Extension Lag30-35°),Short-arc困難,SLR抵抗運動可能.退院時評価:膝関節ROM0-80°(Extension Lag10°),Short-arc抵抗運動可能.
<比較症例>H20.4~H23.3の期間における当院同一術者が執刀した20例のTKA症例のうち,調査可能であった14例15膝を対象に以下の項目を後ろ向きに調査した.調査項目は_丸1_年齢,_丸2_性別,_丸3_歩行器歩行自立日,_丸4_T字杖歩行自立日,_丸5_入院期間,_丸6_障害老人の日常生活自立度(以下,JABC):術前→術後とした.各項目にて平均値を算出し,対象症例と比較・検討した.対象者に対して説明と同意を得て行った.
【結果】
比較症例における各数値は,1)年齢:76.6歳,2)性別:男性1名・女性13名,3)歩行器自立:13.1日,4)T字杖自立:21.1日,5)入院期間:49.8日,6)JABC:術前J1;10名・J2;5名→術後J1;9名・J2;6名であった.これに対して対象症例では,3)9日,4)23日,5)52日,6)J2→J2であった.歩行器歩行自立日は比較症例の平均値よりも早いが,T字杖歩行および入院期間に関しては比較症例の平均値よりも遅い結果となった.術前・術後のJABCは1例のみ変化していた.(J1→J2)
【考察】
対象症例はH22.6の骨折受傷後,保存療法にて経過観察しており,再置換術施行までの約10ヶ月間,膝関節は伸展位で固定されていた.Dr.指示の元,術前2週間前より術後の可動域獲得を円滑に行う目的で,PT施行時のみ装具を外し,CPMと筋力強化を実施,ROMに関しては若干の改善が得られた.長期間の伸展固定による影響で膝関節可動域制限と膝関節周囲筋の筋力低下が生じており,術後の経過は比較症例よりも大幅に遅延,入院期間の延長・JABCの低下が生じる可能性があると予想していた.しかし,実際には術後の可動域獲得もスムーズに進み,順調に歩行を開始することが出来た.痛みなく荷重は可能ではあったがExtension Lag(以下,Lag)は術後1週で25°残存していた.歩行時の膝折れ出現が予想されたため,歩行器歩行導入に関してキャスター付きPick up walkerを選択した結果,早期に歩行器歩行が自立した.T字杖での歩行は,PT開始直後から歩行時の膝折れ感の訴えが顕著になった.伸展固定の影響による膝関節伸展筋群の筋力は低下し,Lagの改善に難渋したことがT字杖歩行自立に時間を要した要因であると考える.筋力強化を積極的に実施するとともに,膝折れ防止として簡易膝サポーターを着用して歩行Exを行なうことで訴えは減少し,T字杖歩行が自立した.比較症例と歩行能力到達度を比較すると,歩行器歩行が若干早く可能となったが,T字杖歩行では大きな差がみられなかった.入院期間やJABCの変化も大差はなく,予想以上に早期の歩行能力獲得に至ったと考えられる.
【まとめ】
今回TKA再々置換術に対する理学療法を経験したが,術前の予想に反し早期の歩行能力獲得と自宅退院が達成できた.比較症例と大きな差が出ることなく,歩行器歩行・T字杖歩行獲得が可能であった.一般に再置換症例では理学療法の経過が緩徐である場合が多いが,必ずしもプログラムが遅延するわけではなく,Dr.との連絡を密にし,症例の状態によって柔軟に理学療法プログラムを変更・施行することが重要であると考える.