主催: 東海北陸ブロック理学療法士協議会
【目的】 高齢者では、加齢に伴い筋力や筋持久力が次第に低下し、転倒の危険性が高まるなど身体パフォーマンスを低下させる要因が増える。高齢者のレジスタンストレーニングでは身体的・精神的機能低下がみられやすく、安全性を優先し低負荷で行われやすいため、効率的ではない。このような背景から、近年注目されているトレーニングの一つに加圧トレーニングがある。加圧トレーニングは短い期間で効率よく筋力トレーニングできるというメリットがあるが、その筋力がバランス能力などのパフォーマンスにどのような影響を与えるのかは明らかでなく、臨床への応用は難しい。そこで今回、施設利用中の要介護高齢者を対象に一般的に臨床現場で使用されている自転車エルゴメータを用いて、加圧トレーニングを行い、バランス能力への影響を検討したので報告する。
【方法】 対象は、介護老人保健施設通所リハビリテーションを利用中の高齢者13名(平均年齢78歳;65~90歳)である。対象者は、1:独歩可能な者、2:研究に対して理解可能な者、3:心疾患のない者を選定した。対象者の大腿基部に加圧を施行し、自転車エルゴメータを週1回以上(最高3回)、一日20分を4週間実施した。身体機能の評価として、大腿周径(膝蓋骨上縁より10㎝上)、下腿周径(最大部)、身体パフォーマンスの評価として、開眼片足立ち時間を測定した。統計には、介入前・後の比較に対応のあるt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。対象者には本研究の内容を口頭ならびに書面にて十分に説明し、研究参加の同意を得て実施した。
【結果】 大腿周径は、介入前37.48㎝介入後38.14㎝であり、有意差が認められた(p<0.05)。しかしながら、片脚立位(バランス能力)は、介入前3.36秒、介入後3.65秒であり、有意な向上は認められなかった。
【考察】 大腿周径は4週間の短期間トレーニングで外側広筋に筋肥大が生じた。これは、先行研究の加圧トレーニングによる筋力増強効果と一致し、妥当な結果であった。今回、自転車エルゴメータを用いて加圧トレーニングを実施したが、筋肥大は認められても、身体パフォーマンスの指標である開眼片脚立位の向上は認められなかった。身体パフォーマンスについては、バランストレーニング導入や足部からの入力機能改善訓練が有効であると報告されている。つまり、身体パフォーマンスを向上させるには感覚入力やタイミングの取り方などの運動学習過程が重要であり、加圧トレーニングによる筋肥大だけでは限界があることが示唆された。
【まとめ】 加圧トレーニングは効率的な筋力トレーニングではあるが身体パフォーマンスを高めるには、アプローチに工夫が必要であると考えられた。