抄録
【目的】 人工股関節置換術(以下、THA)を行う際の進入路には様々あり、近年では早期の社会復帰や入院期間の短縮に優れる低侵襲の手術手技が注目されている。
今回、侵襲範囲が比較的狭く、軟部組織損傷の少ない、前方進入法(Direct Anterior Approach:以下、DAA)により、術後経過が良好で早期に自宅退院となった症例を経験したので報告する。
【方法】
〈患者情報〉 74才女性、身長149㎝、体重40㎏で痩せ型。診断名は右変形性股関節症で、右股関節痛を主訴とし受診され、半年間保存的に経過を観察していたが、改善を認めなかったため、DAAによる右人工股関節置換術を施行した症例である。術前は著明な関節可動域制限はなく、立位や歩行時の荷重時痛が主訴であった。歩行は疼痛性跛行を呈し、T字杖使用にて屋外50m程度の歩行レベルであった。
手術は股関節の前面部に約10㎝の皮切、術中の股関節可動域は、130°まで屈曲可能であり、屈曲90°、内旋85°、伸展0°で最大外旋位をとっても脱臼しないことが確認されている。
【結果】
〈入院経過〉 術後1日目はベッド上安静のため自主トレーニングのメニューを作成し指導した。術後3日目より、脱臼のリスクが極めて少ないこと、禁止動作が無いことを十分に説明し運動療法を開始した。筋力は徒手筋力検査法(以下、MMT)にて、右股関節屈曲2、外転4、左は5レベルであった。関節可動域は右股関節屈曲100°、伸展0°、外転30°、左股関節に可動域の制限はなかった。創部の疼痛は軽度で荷重時、運動時の筋性疼痛もなく病棟では歩行車にて歩行が自立し、理学療法では杖歩行の練習を開始した。4日目には安定した杖歩行が可能となり、杖なし歩行練習を開始し、病棟内ADL(トイレ・更衣動作)も自立となった。7日目の抜鈎後には横座りが可能となり、8日目に自宅での試験外泊を実施し、家事動作も問題なく可能であった。11日目に退院前評価を行い、MMT右股関節屈曲3、外転5、関節可動域は右股関節屈曲115°、伸展5°と改善を認め、自主トレーニングメニューを作成し12日目に自宅退院となった。
【考察】 諸報告にあるようにDAA-THAは脱臼しにくく後療法を簡略化できるという点で有用な方法である。また筋の損傷が少ないため、疼痛の訴えが少なく、認知症など動作への理解が不十分な症例にも術後早期より積極的な関節可動域練習や筋再教育、ADL練習が可能である。
本症例が早期退院可能となった理由も、脱臼のリスクが少ないため早期より様々な動作指導が可能で不安要素も少なく、疼痛が軽度で術後より早期荷重歩行が可能であったことが考えられる。
【まとめ】 THAは進入方法の違いにより獲得可能な動作があり、またその時期についても個別にプログラムを立案していく必要がある。シングルケースではあるが、DAA術後の経過と動作練習の開始時期について報告した。