東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: S-14
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主題演題
急性期脳卒中患者の病棟内歩行自立を許可する判定方法の研究
*浅野 翔河尻 博幸三科 ひろみ林 博教木村 伸也
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キーワード: 脳卒中, 歩行, 自立
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抄録

【目的】 病棟内歩行自立許可は脳卒中患者のリハビリテーションの過程で、最も重要な判断といえる。この判定方法に関しては、回復期リハ病棟入院患者など集中的リハビリテーション実施時期において、種々の運動機能評価に基づく判定基準が報告されている。しかし急性期リハにおける報告は少ない。今回我々は、過去の報告においてしばしば使用されてきた運動機能評価法と病棟内での歩行動作および関連動作の観察・評価の結果から急性期リハにおける病棟内歩行自立の判定方法について検討を行った。
【対象と方法】 病棟内1周(約50m)の連続歩行が可能で病棟内歩行未自立の入院脳卒中患者54名(男性41名、女性13名、年齢68.1±11.3歳、評価時点の発症後期間13.3±11.3日)を対象とし、以下の評価を行った。
1. 運動機能評価:(1)最大歩行速度(以下、MWS)、(2)Timed“up and go”test(以下、TUG)、(3)Berg balance scale(以下、BBS)。それぞれについて、過去10年間の報告に基づいて、歩行自立判定のカットオフ値を、MWS35.3m/min(伊集ら2009)、TUG15.3秒(高橋ら2008)、BBS33点(高橋ら2008)とし、各評価結果毎に対象を2群に分類した。
2. 病棟内歩行観察・評価:当院で作成した歩行自立アセスメントシートを使用して自室ベッドから起き上がり、病棟内を1周歩行、再び自室ベッドに戻り臥位をとるまでの一連の動作を観察し、病棟内歩行における問題を確認した。
 全例の各運動機能評価に基づく歩行自立判定結果と病棟内歩行観察・評価結果を比較し、さらに自宅退院した44名については評価日から退院までの期間との関連を分析した。統計解析法はMann-Whitney検定(有意水準5%未満)、処理には、SPSS ver. 19.0を使用した。
【結果】 1. 各運動機能評価のカットオフ値を満たした者は、54名中、MWS44名、TUG38名、BBS48名であった。このうち、病棟内歩行観察・評価ではMWS17名、TUG12名、BBS21名に問題が確認された。一方、カットオフ値を満たしていない者ではTUG2名を除き、病棟内歩行観察・評価でも問題が確認された。
2. 自宅退院44名が退院までに要した期間は、各運動機能評価のカットオフ値により分類された2群間では有意差を認めなかった(MWS:p=0.949, TUG:p=0.694, BBS:p=0.870)。病棟内歩行観察・評価の問題の有無で分類した2群間では有意差を認め(p=0.021)、問題の無い者の方が早期に退院した(問題なし:9.6±8.9日、問題あり:14.0±6.4日)。
【考察】 広く用いられている運動機能評価であるMWS, TUG, BBSのカットオフ値を満たしているものであっても、病棟内歩行観察・評価では問題が確認された例が多く、既存の運動機能評価のみで歩行自立を判定することはできないと考えられた。また、MWS, TUG, BBSとは違い、病棟内歩行観察・評価の結果は、退院までに要する期間と有意に関連していた。
 以上から、運動機能評価のみではなく直接病棟での歩行を観察することによって、問題点を明らかにすることが重要と考えられた。
【まとめ】 急性期脳卒中の病棟内歩行自立の判定には直接歩行動作の問題が明らかとなる病棟内歩行観察・評価の方が既存の評価法よりも優れていると考えられた。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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