抄録
【はじめに】 脳卒中片麻痺の歩行の特徴として、歩行速度低下、歩幅減少、前足部外側接地などがある。停滞した歩行は活動範囲の狭小化を招き、予後を悪化させる要因となる。Yamamotoらが開発した油圧制動継手付短下肢装具(GS)は底屈制動と背屈フリーの機能を持ち、片麻痺患者のヒールロッカーとアンクルロッカーを改善させると報告されている。ただし、GSでは立脚終期における下腿三頭筋の補助は期待できないため、運動療法が重要視されている。今回、歩行能力の改善を目的にGSと下腿三頭筋に対する運動療法を中心に行ったのでその効果を検証する。
【倫理的配慮】 今回の報告に際して、患者本人に説明し、同意を得た。
【症例紹介】 65歳の女性で発症後5カ月経過した脳梗塞左片麻痺である。ニーズは左上肢機能向上、歩行能力向上であった。
【初期評価】 身長147㎝、体重47㎏であった。Brunstrom stage上肢3、下肢4、手指2、Modified Ashworth Scaleは足関節底屈筋2、関節可動域は足関節背屈10度、中足趾節間関節(MP)伸展60度、股関節伸展10度、MMTは膝関節伸展4、足関節底屈2であった(すべて麻痺側)。歩行は屋内T字杖歩行自立で、左初期接地で前足部外側接地、左立脚中期で距骨下関節(ST)過回内、左前遊脚期でMP伸展の不足が認められた。歩行速度は18.2m/min、歩幅は31.3㎝であった(最大歩行条件)。
【初期問題点】 左下肢筋力低下、左足関節背屈可動域制限、歩行障害を挙げた。
【初期治療】 左下肢筋力低下に対して筋力強化運動を、歩行障害に対して歩行運動と装具療法を行った。GSの設定は底屈制動力2.7、初期背屈角度5度、内側縦アーチ載距突起部にアーチ形成、MP伸展3°とした。頻度は週2回であった。
【結果】 GSにより即時的に踵接地、前脛骨筋の遠心性収縮補助、ST過回内防止を実現した。これにより歩行速度が21.9m/minから25.4m/minに改善した。歩幅は25.6㎝から30.3㎝に増加した。さらにGS着用10日後に43.8 m/min、38.5㎝に改善した。
【残存する問題点と治療】 下腿三頭筋の筋力低下と立脚終期における踵離地欠如を挙げた。これに対して、足関節背屈20度位のくさび上でゆっくりとした足関節底背屈による下腿三頭筋強化運動とステップ運動を開始した。結果、GS着用99日後で歩行速度46.2m/min、歩幅43.5㎝に改善した。
【考察】 GSにより、即時的に歩容、歩行速度が改善した。これは、前足部外側接地の是正、前脛骨筋の遠心性収縮補助、ST過回内防止を実現したためと考えた。さらに、GS着用10日後の評価で、歩行速度、歩幅がさらに改善した。これはGSに慣れたことや荷重応答期から立脚中期にかけて身体重心が上昇する歩容に変化したためと考えた。しかし、その後改善がみられず、その原因を立脚終期での下腿三頭筋の機能低下と考え、筋力強化運動とステップ運動を追加したところ、軽度の歩行能力改善が認められた。今回、くさび上でゆっくり足関節底背屈運動を行ったが、今後、筋力強化運動時の運動速度、筋収縮形態、体幹と下腿の位置関係などを再検討する必要があると考えられた。