抄録
【はじめに】 脳性麻痺(以下CP)児の股関節脱臼は、幼児期後半から就学前後に多く見られる変形で、鈴木によると、片麻痺児は4~8%、両麻痺児は約10%、四肢麻痺児は50%の割合で股関節亜脱臼(以下、亜脱臼)を発症する、としている。当院の整形外科では、migration percentage(以下、MP)が評価の指標とされており、MP50%以上を股関節脱臼の改善を目的とした外科的治療(以下、手術)の適応としている。今回、我々は、当院で亜脱臼の診断を受けたCP児を対象にその発症年齢と手術の有無について調査したので以下に報告する。
【対象と方法】 対象は、1998年4月~2012年3月までに当院を受診し、手術の対象(MP50%以上)と診断されたCP児61名(男34名、女27名)。年齢は、3~16歳(平均8.6歳±3.09)。粗大運動能力分類システム(以下、GMFCS)レベルは、3が8名、4が10名、5が43名であった。方法は、過去の診療記録より、MP50%以上と診断された年齢および手術時の年齢を調べた。また手術後に再度MP50%以上と診断された年齢も合わせて調査を行った。
【結果】 MP50%以上の診断を受けた平均年齢は、GMFCSレベル3が6.0歳±2.07、レベル4が5.6歳±2.63、レベル5が5.2歳±2.16で、粗大運動能力レベルが低下するほど、早期に発症していた。手術を行ったCP児は、61名のうち25名、平均年齢6.1歳±1.66であった。手術を行った25名のうち5名(すべてGMFCSレベル5)は、平均年齢8.8歳±1.92でMP50%以上の亜脱臼の再発が確認された。
【考察】 森田は、CP児の股関節脱臼の原因を、脊柱および股関節周囲筋の筋緊張の不均衡とし、筋緊張の亢進や筋短縮、臼蓋形成不全などがある、としている。また松尾によると、筋緊張が強いと3~5歳で急激に変形が進行することがある、としている。今回の調査でも、平均5~6歳で手術適応となる亜脱臼への進行が見られ、幼児期までの医学的管理の重要性が示された結果となった。また、GMFCSレベルが低い程、早期に発症していたのは、筋緊張の亢進が運動機能低下の一つの要因となっており、下肢の自発運動の低下や荷重の不足、臼蓋形成不全をもたらすために亜脱臼が進行したと考えた。
今回の調査では、股関節脱臼の改善を目的に手術を受けた25名のうち5名は、平均年齢8.8歳±1.92でMP50%以上の亜脱臼を再発した。5名のGMFCSレベルは全員5であった。森田によると、重症児は経年的に非対称性を示しやすく、変形や拘縮は進行し、欲求や感情の変化、過剰な努力などが筋緊張を高める要因になる、としている。CP児の筋緊張異常は永続的なものであり、手術時に残された筋の緊張は、経年的に亢進する可能性があるため、亜脱臼の進行を予防するためには、就学後も継続的に医学的管理が必要であると考える。
【まとめ】 今回、当院におけるCP児の亜脱臼の発症年齢および手術の有無を調査した。手術の適応となる亜脱臼の発症年齢は平均5~6歳で、レベルが低い程低年齢で発症していた。手術を受けたCP児25名のうち5名は、股関節亜脱臼の再発が確認された。筋緊張は経年的に亢進するため、幼児期までの股関節脱臼の予防に加え、就学後も継続した医学的管理が必要と考える。