東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-49
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一般口述
腓骨神経麻痺患者に対して油圧式短下肢装具を試した一症例
*村井 伯啓新開 崇史
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抄録

【はじめに】 近年、脳卒中片麻痺患者に対する装具療法において油圧式短下肢装具(以下、油圧式AFO)が注目されている。油圧式AFOは腓骨神経麻痺患者にも適応とされているが、腓骨神経麻痺患者に対する報告はほとんどない。今回、腓骨神経麻痺患者に対して油圧式AFOを試す機会を得たため報告する。尚、本発表を行うにあたり患者に十分な説明を行い、同意を得た。
【症例紹介】 60歳代、女性。自転車乗車中、自動車との接触事故にて左膝関節内骨折を受傷し、A病院にてギプス固定で保存療法施行。受傷30日後リハビリ継続目的で当院入院。受傷40日後ギプスからシャーレに変更。受傷45日後シャーレ除去。翌日、左腓骨神経麻痺出現。受傷3か月後退院。
【理学療法評価】 可動域は左側足関節背屈-10°(active)。筋力は左側足関節背屈MMT2。感覚は左腓骨神経領域に8/10で軽度鈍磨。歩容は裸足歩行で鶏歩となる。
【方法・結果】 裸足および油圧式AFOにて屋内10m歩行テストを行う。歩行速度・歩行率および本人の感想を聴取し、比較・検討する。結果、歩行速度・歩行率は裸足0.968(m/s)・1.066(steps/s)、油圧式AFO0.882(m/s)・1.000(steps/s)。本人の感想は油圧式AFOは軽く、歩きやすい。さらに油圧式AFOは反対側下肢と同じ感覚で歩けるといった意見が出た。
【考察】 裸足と油圧式AFOの歩容の大きな違いは立脚初期の踵接地の有無および足底接地への足関節の滑らかな底屈運動であった。正常歩行では踵接地時に足関節背屈筋群の遠心性収縮にて底屈を制動する。この制動により推進力の保存と衝撃吸収が行われる。裸足歩行では立脚初期に踵接地が起こらず尖足接地となってしまっている。油圧式AFOでは立脚初期に足関節底屈制動機能が働き、腓骨神経麻痺による足関節底屈制動を行う足関節背屈筋群の代償が行われた。そのため踵接地後の推進力の保存と衝撃吸収が行われ正常歩行に近い歩行が得られたと考えられる。しかし、歩行速度・歩行率は裸足と比べわずかだが低下してしまった。その原因として油圧式AFOの装着に慣れていないことが一番の要因と考える。主観的意見で油圧式AFOは左右差なく歩けたという意見があり、歩容と合わせて考えると油圧式AFOは腓骨神経麻痺患者に対しても正常歩行に近い歩行が実現できるAFOであると考えられる。
【まとめ】 今回、油圧式AFOは脳卒中片麻痺患者だけでなく腓骨神経麻痺患者に対しても効果が得られることが示唆された。今後、対象者を増やし、さらなる検討を行っていきたい。

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