東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-54
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一般口述
寝たきりクライエントの不動による苦痛の解除に関する研究 ~1日の状態観察と他動的関節可動域訓練が心身に及ぼす影響~
*稲垣 圭亮澤 俊二(OT)冨田 昌夫山田 晃司(MT)壹岐 英正藤田 謹司(MD)
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キーワード: 寝たきり, 不動, 苦痛
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抄録

【目的】 近年、介護保険施設や在宅サービスの普及により、病院以外で終末を迎えるクライエントが増加している。それに伴い、寝たきりクライエントに関わるセラピストが増加している。しかし、寝たきりクライエントを対象としたリハビリテーション(以下、リハビリ)の報告は少なく、右肩上がりの効果を得られにくいためセラピストのモチベーションの低下にも影響しているとの報告もある。大田は終末期や寝たきりクライエントに対するリハビリの目的として「不動による苦痛の解除」をあげているが、不動が本当に苦痛なのか、どのような苦痛か、どうすれば解除できるのか明確ではない。そこで、今回は寝たきりクライエントの不動による苦痛に着目し、寝たきりクライエントの1日の心身状態の変動と他動的関節可動域(以下、ROM)訓練を中心としたリハビリが心身に及ぼす影響について検討したので報告する。
【対象】 当施設入所中の寝たきりクライエント6名。すべての対象者は1日の大半をベッド上で過ごし、日常生活動作はすべて全介助である。今回は藤田保健衛生大学疫学・臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で、本人から同意を得ることが困難なため、代理となる家族2名、当施設の医師、看護師長の計4名に説明を行い、同意を得て行った。
【方法】 起床から就寝(7時30分~20時)までのリハビリ及び入浴やオムツ交換といった体動を伴う動作の前後に血圧、脈拍、動脈血酸素飽和度(以下SpO2)、精神的ストレス(唾液アミラーゼモニター)の計測・評価を行った。計測・評価は1日を通して各対象者に計20回行った。リハビリ内容はケアプランに基づき、ROMの維持、拘縮予防を目的として各関節の他動的ROM訓練を20分間施行した。今回はより長時間不動状態が続いていると考えられる起床後にリハビリを行った。
【結果】 すべての対象者において体動により血圧、脈拍が上昇する傾向を示した。血圧の変動の大きさは入浴時に最も大きく、続いてオムツ交換、他動的ROM訓練の順であった。SpO2においても体動により上昇する傾向を示し、特に他動的ROM訓練、入浴時に著明な上昇を示した。精神的ストレスは他動的ROM訓練により上昇するが、その後低下する傾向を示した。また、入浴後にも低下する傾向を示した。
【考察】 今回、寝たきりクライエントの1日の状態観察により、能動的な動作を行うことは困難であるが、1日の中で心身状態は大きく変動していることが認められた。血圧や脈拍の変動から、1日の大半を不動状態で過ごす寝たきりクライエントにとってシャワーチェアーでの坐位や、オムツ交換時の側臥位など不安定な姿勢を保持することが大きな身体的負荷となっていることが考えられた。SpO2の上昇に関しては体動により、胸郭の動きを伴ったことや血液の循環が改善されたことが原因と考えられた。精神的ストレスにおいては他動的ROM訓練によって一時は上昇するが、その後他動的ROM訓練を行う前よりも低下することから、他動的ROM訓練によって不動による精神的ストレスが軽減できることが示唆された。そして、不動状態が寝たきりクライエントにとっての精神的ストレスの1つの因子となっていると考えられた。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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