抄録
本稿は、現代社会における「締切」の意義を追究することを目的として、ニクラス・ルーマンによる社会システム理論に基づく時間論と「時間の稀少性と期限の緊急性」論考を取り上げ、「締切」を論じるための社会学的な枠組みについて検討する。ルーマンの社会学的時間論は、社会の中で時間を観察する種々の図式に共通する最も基本的な枠組みとして、何らかの出来事の「以前/以後」の区別を提起する。その「以前/以後」や「過去/未来」の区別といった、意味の時間次元を構成する契機は、事象次元や社会的次元といった他の次元との差異によってのみ意味をもつ、と規定されている。その枠組みを「時間の稀少性と期限の緊急性」論考の議論に当てはめてみると、「締切」もまた、そこで設定された「締切」の「以前/以後」を区別する観察図式として、つまり一つの時間形式として捉えることができる。この形式のもとで、事象次元や社会的次元という意味の他次元と、時間次元との関わりが問題として立ち現れる。つまり締切の設定と、締切が設定された案件の優先は、内容面や自他の相違を超えてコミュニケーションが継続される可能性を高める一方で、まさに同じ要因から、様々な派生問題も見出される。