本稿は、主に仕事/育児の両立を扱うワーク・ライフ・バランス研究と「時間の社会学」との接続を試みた。これまで「時間の社会学」で扱ってきた社会的時間は、大人同士の相互行為における時間を措定してきた。仕事における大人同士の相互行為では、社会的に「組織化された時間意識」(Hassard1991)をもつことを前提とし、確実性や計画によってお互いを同期させる。
一方、育児の時間は大人と子どもの相互行為であり、前者は社会に適合的な時間意識をもつが、後者は個々の生体リズムに基づく時間を生きている。すなわち育児は異なる時間意識をもつもの同士の相互行為であり、なおかつ子どもの生体リズムに依存することから不確実で硬直的な時間である。この育児の時間は「時間の社会学」では見落とされてきた。
育児の時間と仕事との両立を「時間の社会学」に位置づけるために、「制度固有の時間」への着目が重要である。仕事は市場制度において、育児は家族制度において行われるが、それぞれの制度は異なる時間の特徴をもつ。複数の制度を視野に含むワーク・ライフ・バランス研究は、「制度固有の時間」をより明確に捉え、制度間の矛盾を描出することに寄与する。これら2つの研究を接続することで、「時間の社会的構成」(飯田2024)を捉える可能性があることを示した。
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