時間学研究
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最新号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 二クラス・ルーマン「時間の稀少性と期限の緊急性」論考より
    梅村 麦生
    2024 年15 巻 p. 1-14
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
     本稿は、現代社会における「締切」の意義を追究することを目的として、ニクラス・ルーマンによる社会システム理論に基づく時間論と「時間の稀少性と期限の緊急性」論考を取り上げ、「締切」を論じるための社会学的な枠組みについて検討する。ルーマンの社会学的時間論は、社会の中で時間を観察する種々の図式に共通する最も基本的な枠組みとして、何らかの出来事の「以前/以後」の区別を提起する。その「以前/以後」や「過去/未来」の区別といった、意味の時間次元を構成する契機は、事象次元や社会的次元といった他の次元との差異によってのみ意味をもつ、と規定されている。その枠組みを「時間の稀少性と期限の緊急性」論考の議論に当てはめてみると、「締切」もまた、そこで設定された「締切」の「以前/以後」を区別する観察図式として、つまり一つの時間形式として捉えることができる。この形式のもとで、事象次元や社会的次元という意味の他次元と、時間次元との関わりが問題として立ち現れる。つまり締切の設定と、締切が設定された案件の優先は、内容面や自他の相違を超えてコミュニケーションが継続される可能性を高める一方で、まさに同じ要因から、様々な派生問題も見出される。
  • 『頭書長暦』と『暦略註』を中心に
    馬場 真理子
    2024 年15 巻 p. 15-31
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    前近代には多様な暦注が暦に記され、人々の生活に影響を及ぼしていた。とりわけ近世には数多の暦注解説書が出版され、人々の暦にかかわる知識を形成する基盤となった。暦注解説書出版の展開を明らかにすることは、近世の暦認識を考える上で重要である。本稿では、暦注解説書出版の概観を示し、2つの転換期を指摘した。第一に、貞享改暦(1685年施行)である。17世紀前半に暦注解説を担っていた仏教者たちは、この時期から徐々に存在感を弱めていく。第二に、1800年前後である。暦注解説書出版は18世紀に隆盛を迎えるが、19世紀に入ると新規の開板は減少していく。本稿では両時期を代表する暦注解説書として『頭書長暦』(1688)と『暦略註』(1800)を取り上げ、次のことを明らかにした。①貞享改暦を機に、実際の暦と合致しているか否かが暦注解説書における重要な価値基準となった。②その結果、実際の暦と合致しない仏教者による暦注解説書は衰退していった。③19世紀には暦占の影響力の相対的低下や暦注解説書の飽和により、新規の開板が減少した。④その中で、暦に基づく天候予測や凶事の回避方法などの情報を盛り込んで社会の需要に応えた暦注解説書は、人気を維持することができた。
  • 育児の時間に着目して
    齋藤 早苗
    2024 年15 巻 p. 33-45
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
     本稿は、主に仕事/育児の両立を扱うワーク・ライフ・バランス研究と「時間の社会学」との接続を試みた。これまで「時間の社会学」で扱ってきた社会的時間は、大人同士の相互行為における時間を措定してきた。仕事における大人同士の相互行為では、社会的に「組織化された時間意識」(Hassard1991)をもつことを前提とし、確実性や計画によってお互いを同期させる。  一方、育児の時間は大人と子どもの相互行為であり、前者は社会に適合的な時間意識をもつが、後者は個々の生体リズムに基づく時間を生きている。すなわち育児は異なる時間意識をもつもの同士の相互行為であり、なおかつ子どもの生体リズムに依存することから不確実で硬直的な時間である。この育児の時間は「時間の社会学」では見落とされてきた。  育児の時間と仕事との両立を「時間の社会学」に位置づけるために、「制度固有の時間」への着目が重要である。仕事は市場制度において、育児は家族制度において行われるが、それぞれの制度は異なる時間の特徴をもつ。複数の制度を視野に含むワーク・ライフ・バランス研究は、「制度固有の時間」をより明確に捉え、制度間の矛盾を描出することに寄与する。これら2つの研究を接続することで、「時間の社会的構成」(飯田2024)を捉える可能性があることを示した。
  • 青野 靖之, 藤井 秀太
    2024 年15 巻 p. 47-60
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
     青森県にある岩木山の初冠雪日の記録について,秋季の気温復元への適用の可能性について検討した。1860年代までについては,弘前藩庁日記などの史料調査から179年分の初冠雪に関するデータを収集した。初冠雪日は観望場所により左右されることから,近現代についても弘前市で観望されたデータを選択し,気温との関係をキャリブレートした。秋田における高層気象観測値との関係を分析したところ,岩木山の標高とほぼ同じ高さにあたる850 hPaに対応する高度の10月平均気温と初冠雪日との間で高い相関が得られた。太陽活動の弱い近世の気温復元を目標にしたことから,太陽活動の相対的に弱い年における気温と初冠雪日との関係を求めることにした。その結果,黒点相対数190 (または黒点群数9)未満に解析対象を絞った場合に,最も相関が高くなることがわかった。移動中央値を用いた平滑化により復元誤差はRMSEで1℃以下におさまった。得られた復元結果は,17~19世紀における2つの太陽活動の極小期で近現代よりも気温が1℃程度低いことを示した。気温復元に適した独立峰の条件の見極め方,太陽周期が気温-初冠雪日間の関係に及ぼす影響の評価など,本研究が今後に残した課題は多い。
  • 三池 秀敏, 長 篤志
    2024 年15 巻 p. 61-76
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
     この論文では、ロウソクの科学の歴史的な側面を振り返りながら、現代の科学(非線形科学)が捉えるロウソクの燃焼・火炎の時間発展について議論している。特に、非線形振動子としてのロウソク火炎振動が成長する過程の観測結果に基づき、火炎上空での渦の発生と降下が、火炎の振動に繋がるプロセスを考察している。また、竜巻・火災旋風や積乱雲に伴う下降流やダウンバーストなどの、気象現象との相似性についても議論している。
  • 山本 晴彦, 古場 杏奈
    2024 年15 巻 p. 77-111
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
     2023年7月10日未明から昼前にかけて梅雨前線の活動が活発となって線状降水帯が発生し,福岡県や大分県では大雨特別警報を発表するなど記録的な大雨となった。福岡県南部の筑後地方に位置する耳納山地の発心北の雨量観測所では,9日0時からの積算降水量が約500mmに達した10日9時30分頃,雨量観測所から北西2kmに位置する久留米市田主丸町の竹野地区を流れる千ノ尾川で土石流が発生し,死者1人,重傷者1人,建物被害が約50棟弱にも及ぶ甚大な被害が発生した。田主丸町の市街地では,筑後川支川の巨瀬川の外水氾濫,耳納山地からの雨水の流下による内水氾濫により,田主丸町総合支所をはじめ,公共施設,医療機関,店舗,住宅などが床上・床下浸水の被害に見舞われ,洪水浸水想定区域(想定最大規模)に指定されたエリア内で発生していた。
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